インパクト投資をインパクト投資たらしめているのはインパクト評価の実行と言っても過言ではないぐらい、インパクト評価はとても重要です。
グローバルなインパクト・ファンドを見てみると、インパクト・ファンドが投資を実行する際にインパクト評価を行い、さらに投資実行後にもそれは続きます。
今回は、なぜインパクト評価をするのか?についてご紹介します。あくまでもImpactShareの解釈になりますが、昨今のグローバルな潮流を踏まえて解説を試みたいと思います。参考になれば幸いです。
ちなみによく日本では、「インパクト評価」という言葉が使われていますが、正確にいうと、グローバルでは、「インパクト測定・マネジメント」(Impact Measurement and Management, IMMという)という言葉が使われています。この記事においても、グローバルでの使われ方に倣って、インパクト評価ではなく、IMMということにします。
IMMを実行する3つの理由は以下になるとImpactShareは考えます。以下、紹介します。
資産運用者が、最終投資家のインパクトの意図の実現度合いを測るため
事業経営者が、社会的・環境的インパクトを把握するため
ステークホルダーと事業経営者が、IMMの結果をもとに対話をし、企業価値向上を図るため
投資ファンドに資金を預ける、最終投資家によるインパクトの意図が出発点
非上場株式に投資を実行するVC/PEや主に上場株式に投資を実行するアセットマネジメント会社(あわせて本記事では資産運用者という)は、年金基金などに代表される最終投資家からお金を預かって投資をしています。
この最終投資家が経済的なリターンと平行して、社会的・環境的インパクトを生み出す意向があることが、インパクト投資の出発点です。資産運用者は、最終投資家のニーズに沿ってインパクト投資を実行します。最終投資家や資産運用者のこの意向を、インパクト投資業界では、「インパクト投資の意図(intentionality)」と言われています。
経済性と社会性どちらに軽重を置くかは最終投資家の意図による
インパクト投資は、「経済性と社会性を両方を目指す投資」と書きましたが、どの程度それぞれを重視するのかは、最終投資家の属性や意図によって異なります。例えば、年金基金であれば経済性をより重視するでしょうし、もし超長期で投資を望むファミリー財団などであれば、社会性をより重視するとも考えられます。
最終投資家のインパクトの意図の実現を確認する手段としてのIMM
資産運用者は、最終投資家の意図に沿ってインパクト・ファンドの投資戦略資を立案します。その際、投資先が経済性、社会性の観点でどのような目標を達成すれば良いのか、投資後に投資先による達成状況はどうなのか、経済性及び社会性それぞれについて評価する必要があります。
経済性について、期待していた金銭的リターンを投資が生み出したかどうかについては、一般的な投資と同様に財務的な評価を行いますが、一方で、社会性についてはどうでしょうか。投資先の事業が「社会・環境に良さそうなことをしている」という漠然とした説明では、社会課題を真に解決し社会的リターンを創出しているかどうか分かりません。最終投資家から社会的・環境的インパクトを生み出すものとして資金調達しているにも関わらず、極論ですが、投資先がそのようなインパクトを全く生み出していなかったりしたら、「インパクト・ウォッシング」と最終投資家などから言われてしまうレピュテーション・リスクさえあります。
さらに、投資先事業をIMMをすることによって、投資先事業の改善にも役立てることができます。
事業経営者にとって、事業改善に役立つIMM
IMMはインパクトを意図する資産運用者から求められるため(仕方なく!!)IMMを実行するということではなく、事業経営の観点でも役立つと考えられています。
インパクト投資の対象は、ビジネスを通じて社会的・環境的インパクトを創出していると書いてきましたが、そのアプローチはいくつか種類がありそうです。例えば、途上国において教育水準を上げることを目的としたオンライン教育事業をする会社もあれば、食品事業を展開している会社が既存のプラスチック包装に変わる生物分解性の高い素材を開発・提供するケースもあります。前者は、社会課題を直接解決している事例といえますし、後者は、会社の持続可能性を重視し、ステークホルダーにポジティブなインパクトを創出している事例と考えられます。
その際、企業は、自社の生み出すインパクトのうち、どれが重要なのか、重要なアウトカムの結果を評価するために、どのデータを集めると良いのでしょうか?この質問に答えるのが、まさしくIMMです。
事業経営者は、IMMを実行することで、自社のインパクトの結果の見える化をし、その結果をもとに取組みのPDCAを行います。その内容を株主をはじめとするステークホルダーと共有することで、多様な視点を取り入れながら企業価値向上に役立てることもできます。
以上、IMMを実行する3つの理由をご紹介しました。
資産運用者が、最終投資家のインパクトの意図の実現度合いを測るため
事業経営者が、社会的・環境的インパクトを把握するため
ステークホルダーと事業経営者が、IMMの結果をもとに対話をし、企業価値向上を図るため
次回は、具体的にIMMをどのように実行するのか、ポイントを紹介したいと思います。
参考資料
A GUIDE FOR IMPACT INVESTMENT FUND MANAGERS (Global Impact Investing Network)
Why do enterprises manage impact? (Impact Management Project)
「インパクト投資の基礎」シリーズにご関心ある方は、こちらもご参照ください。