インパクト投資という言葉が日本のメディアにも取り上げられるようになりましたが、インパクト投資は何なのか?ESG投資と結局何が違うの?について紹介したいと思います。
インパクト投資の定義
インパクト投資は、社会的リターンを重視するので経済的リターンが犠牲になるのではないか、社会的リターンは良いことであると説明しているだけではないか、といった指摘が聞こえます。
インパクト投資の定義は、Global Impact Investing Networkの定めているものがグローバルでは一般的です。
Impact investments are investments made with the intention to generate positive, measurable social and environmental impact alongside a financial return.
Global Impact Investing Network ‘What is impact investing?’
ポイントは、1) 経済的リターンと社会的リターン両方を追求すること、2)投資家にその意図があること、3)社会的リターンを計測することの3点です。
経済的リターンを求めるファンドがほとんど
経済的リターンと社会的リターン両方を追求すると定義されていますが、ファンドによって比重をどちらに置くのか異なります。
GIINがインパクト投資家に向けに行っている調査結果を見ていると、経済的リターンをより重視するファンドが85%を占めています。
GIIN Annual Impact Investor Survey 2020よりImpactShare作成
ついでにどの程度経済的リターンが生み出されているのかも紹介しておきます。経済的リターンをより重視するプライベートエクイティインパクトファンドののIRR中央値は16~18%となっています。
GIIN Annual Impact Investor Survey 2019よりImpactShare作成
ESG投資との違いについて
どのように区別するかは諸説ありますが、私が国内外の投資家と議論してきた経験からすると、以下の説明の仕方が分かりやすいのではないかと思います。この解釈のみが正解ということではありません。皆さんの理解の一助になればと思い、ここで紹介しておきます。
ESG投資とは何なのかを振り返った後に考えを深めていきたいと思います。
ESG投資とは?
今までの投資判断の材料にESG要因を考慮した投資です。今までの伝統的な投資判断材料は、キャッシュフロー等の定量的な財務情報と、事業戦略等の非財務情報です。そういった項目に加えて、地球温暖化対策や取締役会の構成等で表される環境、社会、ガバナンスの要因を考慮します。
ESG投資は、2008年リーマン・ショック後に資本市場で短期的な利益追求に対する批判から企業価値を長期的な視点で考えるべきとの機運が高まったことにより、普及しました。歴史的にはESG投資と類似する投資手法がありましたので世界初ということではありませんが、時代の流れもあり定着しつつあるようです。
そういった背景があるので、気候変動などのESG要因が長期的な企業価値に影響を及ぼすものと考えられており、長期的なリスクを低減させる目的で投資判断に組み入れられています。現在は、特に日本においてはSDGsと同じコンテキストで語れることが多くなっていますが、本来は社会課題の解決が念頭に置かれているものではありません。
(イメージ)
“What is responsible investment?”(PRI)及び
ESG開示情報実践ハンドブック(東証)よりImpactShare作成
リスクとリターンの関係
ESG投資は、リスクマネジメントの観点でESG要因を投資判断に組み込んだ、経済的リターンを求める投資と紹介をしました。それに対して、インパクト投資は、ESG要因に加えて、ビジネス機会創出を表すインパクト要因(長期的な社会課題の解決度合い)を投資判断に組み込んだ、経済的リターンを求める投資です。
ESG投資は、経済的リスク及びリターンを見て投資が行われており、投資判断材料が増えたものの、今までの伝統的な投資のやり方と相違ありません。インパクト投資は経済的リスク及びリターンに加えて、社会的リスク及びリターンを考慮して投資が行われます。
インパクト投資の対象は社会課題を解決するビジネスです。投資先が展開するビジネスが社会課題を解決できるかどうか分からない不確実性を社会的リスク、社会課題を解決できた際、その際に地球、社会や人々に対して提供される便益を社会的リターンと呼びます。
社会的インパクト時代の資本市場のあり方(GSG国内諮問委員会)より
インパクト投資は、ESG投資とは目的の異なる投資手法であると考えます。