インパクト投資の業界団体、Global Impact Investing Network(以下、GIINという)が2021年1月、インパクト投資の投資判断:財務的リターンの考察(原題:IMPACT INVESTING DECISION-MAKING: INSIGHTS ON FINANCIAL PERFORMANCE)という調査レポートを公表しました。
GIINは、毎年、世界中のインパクト投資家にアンケート調査し、その結果をGlobal Impact Investor Surveyとして公表しています。ここの数字がインパクト投資の市場規模を表すものとして使われることが多いです。
今回の調査ポレートは、今年のGlobal Impact Investor Surveyを深く分析したものであり、それに加え、カリフォルニア大学など他の研究機関による調査内容もまとめて掲載されていて充実した内容になっています。アセットクラスとしては、プライベートデット、プライベートエクイティ及びリアルアセットが取り上げられていますが、本記事では、プライベートエクイティに限定して概要をご紹介します。
プライベートエクイティにおけるインパクト投資について以下の考察がGIINより導き出されています。
インパクト投資ファンドは、投資目標や投資目的に応じて、市場リターンを実現できている
リターンに大きくばらつきがあり、投資目的によってもパフォーマンスが異なる
小規模ファンドは大規模ファンドよりもアウトパフォームする傾向にある
以下、詳細をご紹介します。
なお、概要を紹介するにあたって誤りがないよう細心の注意を払っていますが、原文もご参照くださいますようお願いします。
調査対象
インパクト投資:インパクト投資は、1) 経済的リターンと社会的リターン両方を追求すること、2)投資家にその意図があること、3)社会的リターンを計測する投資をいいます(詳しくはこちらを参照)。
非上場アセット:プライベートデット、プライベートエクイティ及びリアルアセットが対象で、本記事では、プライベートエクイティを取り上げます。
市場リターンを求める投資:インパクト投資ファンドに種類がありますが、市場リターンをより重視する投資が投資対象になっています。
Global Impact Investor Survey 2020において市場リターンをより重視すると回答した161社(そのうち68%がPE/VC)に対して実施したフォーカスグループの内容に基づき分析がされています。
IRR平均値
以下は、調査参加者がファンド設立してから実現したIRRの平均値です。プライベートデットは安定したIRRに対して、プライベートエクイティは市場リターンが高いことが分かります。
プライベートエクイティに注目して詳細を見ていくと、投資ファンドの規模の小さいもの(AUM100百万ドル以下)方が高いIRRを実現できていることが分かります。新興国においては、食・農業セクターを対象とした投資の場合、IRR27%となっています。
期待値と実績値の比較
回答者の71%が財務上の期待値に沿ったパフォーマンスを出したと回答しており、さらに19%が財務上の期待値を上回るパフォーマンスを実現しています。一方でインパクトパフォーマンスについては、81%の回答者が、インパクトの期待値に沿ったパフォーマンスを実現できたとしています。財務上の期待値を下回っていると答えた回答者はわずか10%にとどまりましたが、インパクトの期待値を下回っていると答えた回答者はいませんでした。
GIINによるまとめ
インパクト投資ファンドは、投資目標や投資目的に応じて、市場リターンを実現
他の研究機関による調査内容もそれを裏付けています。
カリフォルニア大学が行った調査によれば、インパクトテーマに絞ったファンドの中央値のIRRは6.4%であったのに対し、インパクト以外にもESGやサステナビリティをテーマとした投資案件を組み込んだファンドのIRRは7.4%でした。
IFCが行った調査によれば、IFCのインパクト・ファンドは、S&P500を15%上回るパフォーマンスを実現しました。
ケンブリッジアソシエイツが行った調査(2020年第2四半期)では、インパクト・ファンドの運用開始以来のパフォーマンス(15年)が、いくつかのパブリック・エクイティ・ベンチマークを上回りました。
財務リターンに大きなばらつきがある
インパクト投資のリターンに大きなばらつきがあり、平均標準偏差は9.68%となっています。
Global Impact Investor Survey 2020において、新興市場向けのプライベート・エクイティ・ポートフォリオのうち、上位10%がIRR29%を超え、下位10%は6%以下のリターンとなっています。
こういった現状を踏まえると、LPにとってファンド運用会社の選択が重要であり、さらに、投資後のハンズオン支援もパフォーマンス結果に大きな影響を及ぼすとして重要性が強調されています。
投資目的によって財務パフォーマンスが異なる
インパクト投資は財務的及び社会的リターン双方を追求する投資ですが、どちらをどの程度重視しているか、ファンドの目的により異なります。その結果として、財務パフォーマンスもばらつきが生じます。
株主利益の最大化がLPからのマンデートとなっている投資家もインパクトリスクをとった投資を行っていることが分かっています。そういった投資家はインパクトに加え、ESGやサステナビリティをテーマとしたものや普通の投資家に組み合わせたポートフォリオを構築して投資をしていることが多く、リターンは23%となっています。それに対して、インパクトのみの投資を行っている投資家のリターンは16%となっています。
小規模ファンドは大規模ファンドよりもアウトパフォームする傾向にある
Global Impact Investor Survey 2020によると、小規模ファンドの23%はアウトパフォームしています。
ケンブリッジアソシエイツの調査においても、大規模ファンド(AUM100百万円超)リターンが6.03%となっているのに対し、小規模ファンド(AUM USD100百万以下)は8.6%のリターンを実現しており、運用成績が良いとの結果が出ています。
小規模ファンドの方がリターンが高くなるのは、機動力が高く、簡単に投資機会を掴むことができるとためとされています。
以上が概要になります。
サンプル数が少ないので、一般化するのは難しい部分もありますが、少なくとも実態が分かるような調査内容になっていると思います。まだこの分野における調査の数はグローバルにおいても少なく、今後プレーヤーが増えていくに連れてデータが増え、調査が充実していくことを期待しています。