前編では、インパクト投資ファンドClosed Loop Partnersの概要をご紹介しました。
Closed Loop Partnersが“インパクト投資”ファンドとして運営している点に焦点をあて、なぜ異業種、競合他社、官と民を巻き込んだ取り組みができているかを以下の3つの観点で考察していきます。 1つめの特徴は前編で述べたので、本記事では、残りの2点を考察していきます。
使命に沿った資本の重要性と明確なインセンティブの提示
使命のゴール達成のための組織づくり
参画者全員がゴールへの進捗を確認するための透明性の高いインパクト測定とマネジメントの実施
Closed Loop Partnersの掲げる使命達成のための組織づくり
Closed Loop Partnersは収益性とサステナビリティを求めたサーキュラーエコノミーの実現を目指して2014年にRon Gonen氏によって設立されました。
明確な使命と業界各社へのインセンティブの達成を実現するためには実行部隊であるClosed Loop Partnersの組織づくりも重要です。
Gonen氏は100年以上も続く従来型の製造プロセスを循環型、つまりサーキュラーエコノミーという新しい概念に変革するには、リーダーとなる人、変革を促進させる仕組み、活動を支える資金が必要と考えて、組織設計を行なっています。
Closed Loop Partnersではサーキュラーエコノミーの実現のため、『①業界リーダー・イノベーターの参画』、②投資先企業のアクセラレーションの仕組みの導入、③巨大な資本へのアクセスという3つの柱を軸にしています。 各活動について、一つずつ見ていきます。
①業界リーダー・イノベーターがClosed Loop Partnersに参画している
Closed Loop Partnersは各業界に精通し、かつ事業経験も豊富な元経営陣が参画していることが特徴です。例えば、元GEの再生可能エネルギー投資グループの副社長のMartin Aeresや、20年以上ファッション業界に精通し、Donna Karan International and DKNY, for LVMHの元CEOである Caroline BrownもDirectorとして参画しています。サーキュラーエコノミーに関連する医療、ファッション業界の元トップが集結することで彼らの知見、ネットワークを活かしサーキュラーエコノミーの実現に貢献できます。
また他の組織メンバーもユニークで、全32名のメンバーのうち、約45%が経営者、52%が大規模な買収や合併の経験者です。業界における事業経験に加え、買収や合併の経験者も存在することで、Closed Loop Partnersの投資先企業へのバリューアップやLP企業や参画企業との協業や買収などのサポートにも繋がると考えます。
②大企業とのコンソーシアムの仕組みを導入
Closed Loop Partnersは、投資ファンドとイノベーションセンターで構成されています。
イノベーションセンターでは、サーキュラーエコノミーのエコシステム創造に資する大企業や業界団体(NGOなど)とのコンソーシアム設立、関連調査レポート執筆などを行っています。
事業会社同士では競合関係にあるため、なかなか個社で協力関係を構築しにくいですが、Closed Loop Partnersがプロデューサー役を果たすことで、業界全体で新たなテクノロジーを実装する方法を模索する取組を推進しています。
例えば、小売事業者がコンソーシアムを形成しビニール袋の削減に取り組むものなどがあります。
③巨大な資本へのアクセス
Gonen氏はサーキュラーエコノミーの推進にはインフラを作るための大きな資本が必要と考えています。6つのファンドが運営されており、各ファンドせ設定された明確なテーマがあります。ファンドはベンチャーキャピタル、プロジェクトファイナンス、プライベートエクイティ、グロースエクイティと4段階に出資しています。
例えば、ベンチャーキャピタルファンドの投資ステージはアーリーステージ(シードからプレシード)とし、素材、ロボット、アグリテック、サステナブルコンシューマープロダクト、サーキュラーエコノミーを進化させる技術へ投資を行います。
それぞれのファンドでは対象とする企業のステージが異なるため、各ファンドに特化した専門の独立したチームで構成しながらも、Closed Loop Partners全体で投資経験を通じた学びを共有できるように努めているとGonen氏は指摘してます。
同ファンドは、12月13日付けでベンチャーキャピタルファンド2号の資金調達が成功した旨のプレスリリースを行いました。また、ペプシコが同社のプライベートエクイティファンドに15百万ドル出資したことも話題になっています。
3.参画者全員がゴールへの進捗を確認するための透明性の高いインパクト測定・マネジメントの実施
参画者全員の共通ゴールである「サーキュラーエコノミーの実現」の進捗を測るためにもインパクト測定・マネジメント(※)は有効です。共通ゴールがずれてしまうと、各企業は自社のメリットを追求し共創が生まれない可能性があるためです。Closed Loop partnersではインパクト測定・マネジメントをすることで、参画者全員の視線を共通のゴールに集中させ、競合同士でも共創できる環境を整備することができると考えられています。
※インパクト測定・マネジメントについてはこちらの記事もご参照ください。
次回の記事で、投資実績が最も多いVCファンドを事例にインパクト測定及びマネジメントについて深堀していきます。
まとめ
Closed Loop Partnersが「サーキュラーエコノミーの実現」を目指し、異業種、競合他社、官と民を巻き込んだ事業展開を行えている理由をインパクト投資ファンドの特徴を踏まえて以下の3つについて紹介してきました。
使命に沿った資本の重要性と明確なインセンティブの提示
使命のゴール達成のための組織づくり
参画者全員がゴールへの進捗を確認できる透明性の高いインパクト測定とマネジメントの実施
「サーキュラーエコノミーの実現」というインパクトを創出をするにはサプライチェーンに関連する異業種や同業の競合他社を含むサーキュラーエコノミーに関連する業界全体の共創が必要であり、さらにインパクト創出にかかる時間軸を考慮すると共通認識を持ち続けることが重要と考えます。Closed Loop Partnersは、インパクト投資ファンドを通じてインパクトの創出を実現させています。さらに、IMMの手法をうまく活用しながらステークホルダーの巻き込みに成功している事例だと考えます。
<参考資料>
Amazon to launch $2 billion fund to invest in sustainable technology (2020/6/23, ZDNet)
Citibank 'Impact Fund' to capitalize companies who drive ESG value (2/21/2020, BankingDive)
Nestlé invests USD 30 million in Closed Loop Leadership Fund (2020/9/7, Nestle)
Nestlé and Microsoft on financing circular innovations (2020/2/21, GreenBiz)
Episode 143: Ron Gonen, Co-Founder & CEO of Closed Loop Partners (my climate journey)
Closed Loop Partners 2020 Impact Report (Closed Loop Partners)
Photo by Ibrahim Boran on Unsplash