2020年はインパクト投資業界に大きな動きがありました。マイクロソフトがマイノリティ起業家へ出資を行うインパクト投資ファンドClear Vision Impact FundにLP出資を行ったり、アマゾンが炭素排出量を抑えることを目標としたサステナブルテクノロジーへ出資するClimate Pledge Fundを設立したり、シティバンクが150million(約150億円)規模のCiti Impact Fundを設立したりと、こぞってインパクト投資ファンド設立に乗り出した年でした。
その動きを示した一社であるネスレはNestle packaging venture fundをCHF 2Billion(約2,480億円)規模で設立し、そのファンドの1号案件としてClosed Loop Leadership Fundへ30million USD(約30億円)を出資しました。ネスレが出資したClosed Loop Leadership Fundを運営するClosed Loop Partnersはインパクト投資ファンドで、複数のグローバル企業から資金を集め、プロジェクトファイナンスからVCファンド、PEファンドまで複数のファンドを運用しています。
複数企業の巻き込み方やファンドの運用スタイルが興味深く、今回の記事ではこのClosed Loop Partnersの取り組みについてご紹介します。
インパクト投資ファンドClosed Loop Partnersとは
Closed Loop Partnersは収益性とサステナビリティを求めたサーキュラーエコノミーの実現を目指して2014年にRon Gonen氏によって設立されました。投資ファンドとイノベーションセンターの両方の機能を持ち、投資活動から関連企業とのオープンイノベーション支援まで一貫して行っています。
ファンドの種類
Closed Loop Partnersが運用する投資ファンドは目的ごとにファンドスタイルが異なり、以下のように分類されます。
ファンドスタイルに応じて独立したチームで運営されていますが、Closed Loop Partnersとして融合しながらサーキュラーエコノミーの実現という同じゴールの達成に取り組んでいます。
参画企業
各ファンドの参画企業を見てみると、グローバルトップの消費財メーカーなどが参画しています。例えば米国のサーキュラーエコノミーのインフラの構築を目的とした融資を行うClosed Loop Infractracture Fundでは、食品・飲料系ですと、コカコーラ、ネスレ、ドクターペッパー、ペプシコ、Danone、スターバックスが参画し、医療・消費財系は3M、Johnson & Johnson、P&G、ユニリーバが参画しています。プラスチックボトルのイノベーションに特化したClosed Loop Bevarage Fundではアメリカンビバレッジ、コカコーラ、ペプシコ、ドクターペッパーなどがパートナー企業として参画しています。
ネスレが参画したClosed Loop Leadership Fundにはユニリーバやマイクロソフト、SKグローバルケミカルなどがLP出資を行っています。
イノベーションセンター
Closed Loop Partnersのもう一つの特徴として、ファンドとは別にイノベーションセンターというものがあります。大学やシンクタンクなどのパートナーからの支援を得ながら、共通の問題意識を持つ企業同士がプロジェクトを組んでいます。
例えば、NEXT GENコンソーシアムという食品パッケージのサーキュラーエコノミーを促進させる取り組みを組織では、スターバックスとマクドナルドが共同創業パートナーとなり協業に取り組んでいます。その他にも、ウォルマート、TARGET、ドラッグストアチェーンのCVSと代替プラスチック袋の開発に取り組んでいます。
どの企業も自社でサーキュラーエコノミーに取り組んでいます。この取組みでは、そのような企業群が競合企業同士にも関わらず、プロジェクトファイナンスやコンソーシアムという形でサーキュラーエコノミーの実現という共通の目標に向かって取り組んでいます。これはClosed Loop Partnersのユニークな点と言えるかもしれません。
今回の記事ではClosed Loop Partnersが一般的なファンドではなく、“インパクト投資”ファンドとして運営している点に焦点をあて、なぜ異業種、競合他社、官と民を巻き込んだ取り組みができているかを以下の3つの観点で考察していきます。
使命に沿った資本の重要性と明確なインセンティブの提示
使命のゴール達成のための組織づくり
参画者全員がゴールへの進捗を確認できる透明性の高いインパクト測定とマネジメントの実施
前編では、まず一つ目の特徴を考えていきます。
使命に沿った資本の重要性と明確なインセンティブの提示
創設者のRon Gonen氏は20代の時にAndersorn Consulting(現Accenture)、Deloitte Consultingに勤め、その後ビジネススクール時代に、友人と環境に配慮した行動を行うことでクーポンがもらえるビジネスを行うRecycle Bankを創業しました。2010年にRecycle BankをEXIT後、ビジネス業界に身を置きつつも環境に関するSocial Policyに強いパッションを持っていたGonen氏は、友人からの紹介でブルームバーグ政権下のニューヨーク市の衛生・リサイクル・持続可能性担当副長官を務めていました。約2年にわたってパブリックセクターでの務めを果たした後、次の挑戦として当社を設立しました。
Gonen氏はCEOとしての経験やパブリックセクターで市民を巻き込む経験を踏まえて使命に沿った資本の重要性と明確なインセンティブの設計の重要性を実感しています。
Closed Loop Partnersでは「サーキュラーエコノミーの実現」を使命とした資本を集め、投資活動を通して使命の実現に取り組んでいます。
明確なインセンティブとしては、参画するステークホルダー(PL企業やコンソーシアムへの参画企業、パブリックセクター)へのインセンティブです。Gonen氏は従来型の製造プロセスだと無駄が多く、ブランドや小売業が必要以上に支出を増やす構造になっていると指摘すると同時に、多くの企業がサーキュラーエコノミーに移行することで大幅なコストダウンが狙えることも訴えています。
Closed Loop Partnersのインパクトレポートによると、使い捨てプラスチックパッケージの20%を再生利用可能な代替品に変えることで6百万トンの材料を削減することができ、少なくとも100億ドル相当の市場機会が生まれると言います。
業界全体で目指すべき指針の「サーキュラーエコノミーの実現」を使命として掲げています。各社はコミットすることでコストダウンによる自社の事業利益の向上という明確なインセンティブを持っているため、各社がモチベーション高く参画しているようです。
後編では、2つ目および3つ目の特徴について考えていきます。お楽しみに!
<参考資料>
Amazon to launch $2 billion fund to invest in sustainable technology (2020/6/23, ZDNet)
Citibank 'Impact Fund' to capitalize companies who drive ESG value (2/21/2020, BankingDive)
Nestlé invests USD 30 million in Closed Loop Leadership Fund (2020/9/7, Nestle)
Nestlé and Microsoft on financing circular innovations (2020/2/21, GreenBiz)
Episode 143: Ron Gonen, Co-Founder & CEO of Closed Loop Partners (my climate journey)
Closed Loop Partners 2020 Impact Report (Closed Loop Partners)