先日の記事でベイン・キャピタルのインパクト投資ファンド、ベイン・キャピタル・ダブル・インパクト・ファンド(BCDI)の概要を紹介しました。今回はその投資プロセスと投資後のインパクト管理の概要を紹介します。インパクト追求の方針とその徹底ぶりにImpactShare一同、驚きです。読者のみなさんの活動の参考になればと思い、本記事で取り上げることにしました。
<投資哲学>
BCDIは、投資哲学として、①コア事業でインパクトを創出している企業、②既存のビジネス慣習などを大きく変え得る企業に投資することを掲げています。①は、コア事業とは別に、CSR活動などでインパクトを創出している場合は投資対象に当たらないことを意味しています。②は、これまで存在していた企業やNPOと異なり、投資先企業が新たなアプローチを用いて顧客に社会的もしくは環境的インパクトを与えることを意味しています。
こういった企業に投資をすることにより、インパクトを創出をするという意図を持っています。
<投資テーマ>
BCDIは投資をする業種セクターを3つに絞っています。BCDIは基本的にアメリカの成長企業に投資を行うため、アメリカの社会問題を中心にテーマ設定されています。
①健康と福祉(Health & Wellness)
これまでヘルスケアサービスを受けづらかった低所得者層など、より多くの人々がヘルスケアや健康に関連するサービスを受けられることを促進する事業に投資します。アメリカでは、任意の保険制度であり所得格差があることから、貧困層の医療サービスやヘルスケアサービスへのアクセスが大きな問題となっています。
②教育と雇用(Education & Workforce Development)
より多くの人々が教育や職業訓練を受けられることを促進する事業に投資します。アメリカでは社会格差から教育機会にも大きな格差があり、その結果、低所得者層がアクセスできる就業機会に限りがあり、その結果世代を超えて格差が埋まらないことが問題視されています。
③環境・サステナビリティ(Sustainability )
環境汚染や温室効果ガスの削減を実現する事業に投資をします。特に水質汚染、エネルギー、農業分野において、環境汚染問題を解決する事業に投資します。環境問題という広く世界に共通する問題ではありますが、アメリカでは温暖化に加えて水質汚染や水不足が特に社会問題となっています。
<投資プロセス>
①投資先開拓
北米において前述の投資哲学と投資テーマに合う投資案件を発掘します。主に以下の3つの事業モデルや形態を投資先候補としています。
1. 一族経営などの事業(Family led businesses)
2. 大企業からの切り出した事業(Corporate carve-outs)
3. 既存事業の合併により設立された新たな事業会社(Combining multiple platforms to create a new category leader)
ベイン・キャピタルは、プライベートエクイティ・バイアウトファンドであるため、未公開企業へ大型出資を行い、経営権を取得し、数年間かけて経営参画しながら、投資先の企業価値向上を行うことに特徴があります。ベイン・キャピタルのBCDIでは、その手法をインパクト投資にあてはめ、実践している点が興味深いです。既存のバイアウトファンドと親和性のある、事業モデルや形態を投資先候補としています。
BCDIでは、これらを前提に様々なリサーチを通じて投資案件候補を発掘しています。ベイン・キャピタルの実績とネームバリューにより、持込みや紹介案件も多くあることが想像されます。
②投資検討
BCDIは投資実行時、財務面とインパクト面の両面を精査し投資検討を行います。財務面での投資検討は、これまでベイン・キャピタルが行ってきた通常の投資ファンドとしての財務デリジェンスを行います。インパクト投資の検討においては、既存のフレームワークやツールを使って、投資検討先のインパクト面での将来の可能性を調査します。具体的なフレームワークやツール名は公開されていませんが、同社のレポートから推察するに、グローバルなインパクト投資評価やテーマ設定のスタンダードである B-Impact Assessment、IRIS+、SDGs、SASBなどを参考にしているようにも伺えます。
加えて、インパクト投資検討において、投資先のESG状況の確認や、ステークホルダーに関する調査(投資検討先企業の取引先や地域社会への影響などに関する調査など)、セオリー・オブ・チェンジ(投資先の事業が、どのような社会変化を起こし社会課題を解決するかについて整理するフレームワーク)を活用しています。
<投資後の投資先との関わり:インパクト創出の観点から>
BCDIは投資判断を行った後、投資期間中および投資期間終了時(投資持分売却時)を通じて、投資先のインパクト創出のためにインパクト評価・管理を行います。
①投資期間中
BCDIは投資時に投資先の意思決定に影響を与えたりコントロールできるレベルの議決権を取得し、投資先の経営管理・サポートを行っていきます。そのような強い影響力を持った存在として、投資先がインパクトを達成すべく以下の投資先管理・サポートを行います。かなり徹底的に行われている点が同社の特徴といえます。
・経営メンバーの報酬がインパクト連動するように設計すること
投資時に設定したインパクトの進捗率と、投資先経営メンバーの報酬を連動させることにより、インパクトと事業拡大の両立を目指します。
・B-Impact Assessmentの継続的な実施
米国最大の社会的企業認証機関であるB-Labが提供するインパクト評価ツールを用いて、企業のインパクト進捗を評価・管理します。
・インパクトKPIの進捗管理及び予測の実施
投資先のインパクト創出状況を定点管理し、また将来の予測を作成します。おそらく、B-Impact Assessmentと連動させ定量的にインパクトKPIを設定し、その進捗を管理しているものと思われます。
・ステークホルダーとの対話の実施
投資先事業のステークホルダーの要請や意見を定期的にヒアリングし、事業に反映させています。
・長期的な成長とミッションを追求するための全社員アンケートの実施
「高いマネジメントクオリティ」「長期的な成長を目指した経営」「従業員の働きやすさ」「開かれた社内文化」などの観点で定期的な社内調査を行うこととしています。これらが揃っている会社は長期的な成長とミッションを追求できる会社と考えられています。
・従業員のダイバーシティ等の施策の実施
投資先にdiversity, equity, and inclusion(DEI)を推進するチームを設立し、社内のDEI(特に性別や人種などの多様性)の推進を促します。
②投資持分売却時(投資期間終了時)
BCDIが投資持分を売却する場合、その多くの場合が他の投資ファンドや企業へ売却することになります。つまり、投資先を違う投資ファンドや企業に引き渡し、その後もそれらの会社が投資先に大きな影響力をもつことになります。投資先がBCDIから巣立っていった後もインパクトを追求し続けるためには、BCDIが次の売却先にどのように引き渡すかという点が非常に重要になります。この点までインパクト対応を行っている投資ファンドは珍しく、非常に先進的で意義のある取組と考えます。
・インパクト創出を継続するためのガバナンス体制の維持(Governance mechanisms in sales process and purchase agreement)
BCDIが持分を売却する先と持分売却契約を締結する際、その契約内に、投資先がBCDIの手元を離れてもインパクトを重視するガバナンス体制を継続することを条件として盛り込みます。これにより、BCDIから持分を購入した企業や投資ファンドが、投資先に対してインパクトを蔑ろにして財務状況のみを追求するような経営をさせることを防ぎます。
・インパクト創出の観点からの売却先の選定(Verify acquirer's impact track record and commitment)
売却先のインパクト投資分野での実績や、インパクト追求の本気度を審査した上で、売却の意思決定を行います。
以上、BCDIの投資哲学と投資手法を概観しました。
前回記事も参考になればと思います。
Bain Capital Double Impactの取り組み(2021/7/21)
【参考資料】