この記事では、世界有数の投資ファンドであるBain Capital によるインパクト投資ファンドBain Capital Double Impact (BCDI) を紹介していきたいと思います。ここ数年でサイズの大きいPEファンドが幾つもインパクト投資業界に入ってきていますが、その代表的な例といえるでしょう。
Bain Capital によるインパクト・ファンド「Bain Capital Double Impact」とは
概要
Bain Capitalは、アメリカ・マサチューセッツ州に拠点を置く、世界を代表するプライベートエクイティファンドです。1984年に、Bain&Company(世界有数の米国の戦略コンサルティング会社)で働いていたメンバーが独立して創業した投資ファンドで、現在は世界中の企業に投資し、1,300億USドルの総資産を有する超巨大ファンドです。同社はこれまでレストランやコンシューマービジネス事業を中心に企業買収、買収後の企業改革、成長支援により実績を挙げてきたファンドです。多くある買収ファンドの中でもオペレーション改善における成長支援を得意分野として、確実な実績を出してきました。日本においても、すかいらーく、雪国まいたけ、アサツーディ・ケイ、大江戸温泉物語、カナダグース、ドミノピザを買収した米系ファンドとして有名になりました。
同社は2017年に390百万USドルを集め、第1号のインパクト投資ファンドを設立しました。投資活動を通じて解決したい社会課題として、主に以下の3つを掲げ、非上場企業に投資を行ってきています。
人々の健康と教育(Health&Wellness)
地球環境改善や悪影響の削減(Sustainability)
低所得世帯への雇用機会の提供(Community Building)
2020年には、800百万USドルの資金調達に成功して、2号ファンド立ち上げました。この規模は、1号ファンドの規模から大きく飛躍しており、市場における関心の高さが伺えます。
メンバー構成
Bain Capital Double Impactのチームは、20名近くの投資マネージャー、ポートフォリオマネージャーによって構成されています。特徴的な点としては、ほとんどのメンバーがBain Capitalを始めとしたプライベートエクイティバイアウトファンドでの前職経験がある点です。これまでのBain Capitalでの投資および企業成長支援の知見を用いて、インパクト志向のある会社に投資及びサポートをしています。また、人種や男女比率も非常に多様であり、白人男性が多くを占める欧米のプライベートエクイティ業界において慣習を変えていこうという姿勢が感じられます。
Double Impact への投資家は?
これらのファンドにどのようなLP(ファンド投資家)が投資を行っているかは公開されていませんが、1号ファンドはBain Capitalの従業員が出資をした部分も大きいと言われています。その投資実績を踏まえ、2号ファンドで年金基金や金融機関などの機関投資家、ファミリーオフィス、財団なども入り、ファンドの規模が大きく跳ね上がったものと推測されます。
投資先
同社の投資先は現在13社あります。投資先には、学生および成人に教育と雇用機会提供のサポートを行うPenn Foster、看護師を派遣し低所得者層にも医療サービスを届けるHealthDrive、環境負荷の低い造園製品(堆肥など)を提供するLiving Earthなどが存在します。2020年には、1社のExit(BCDIによる企業成長サポート期間が終了し、BCDIの持分を他企業に売却すること)がありました。
2020年にBain Capital Double Impact (BCDI) がExitしたPenn Fosterについて、BCDIの出資に至るまでの経緯、成長支援、Exitまでの過程を紹介したいと思います。
Penn Foster 概要
PennFosterはオンライン教育を提供する米国のリーディングカンパニーの一つです。様々なコースを提供しますが、大学学士卒の単位を授与したり、雇用に必要なスキルを提供し就職に繋げたり、受講者にとって就職における利益のあるプログラムを低価格で提供する点を提供価値としています。
BCDIの投資テーマとの合致
BCDIは”Education and workforce development”を投資テーマの一つとして設定しています。
この背景として、米国におけるトレーニングされたスキルを持った労働者の不足が多くの企業にとって課題となっていることがあります。また、教育された従業員は、より多くのキャリア機会にアクセス出来、そうでない場合と比べ雇用期間が長いこともデータで証明されています。更に、学位ではなくスキル教育こそが広い意味での就業機会へのアクセスに重要である事が世の中で徐々に認められつつあるという背景があります。
これらの状況から、BCDIは”Education and workforce development”が米国における課題解決に繋がり、今後も多くの需要が見込まれるセクターであると考え、インパクトテーマとして設定しています。
Penn Fosterの創出するインパクトは、教育へのアクセス、就業機会へのアクセスを向上させるものであり、BCDIのテーマの一つであるEducation and Workforce developmentに合致しました。その中でも、PennFosterのこれまでの事業実績や米国でのシェアの高さがBCDIにとって魅力的であり、BCDIは同社への出資を決定しました。
投資の実行
2018年、BCDIは他のインパクト投資会社と共にPenn Fosterに出資しました。PennFosterとしても、更なる成長のための資金と、成長を後押ししてくれるハンズオンサポートをしてくれる投資家を探していました。BCDIのEducation and workforce developmentのミッションと、PennFosterの追求したい社会ミッション、その成長プランが合致していたことにより、本件出資が合意されました。
BCDIによる投資後の支援
BCDI出資後、BCDIのポートフォリオサポート(出資先サポート)チームがPennFosterの成長を大きく支援しました。
具体的には、BCDIは以下の取組みの実現を支援しました。
BtoB販売モデルの拡大:当初、PennFosterはB to C のビジネスを展開していましたが、より安定的な収益を獲得できるよう、法人に対してPennFosterの導入をしました。法人の従業員教育に役立つと考えられたためです。特にヘルスケア分野の企業とPennFosterが提供するコンテンツに親和性があるとのことで、ヘルスケアセクターの法人に対しての販売を拡大しました。
経営チームの補充:PennFosterはBCDIのサポートにより、Chief People Officer, Chief Marketing Officer, Chief Technology Officer及び教育分野で世界的に有名な専門家を取締役に招き、経営チームのレベルアップをさせました。
インパクト諮問委員会(Impact Advisory Council)の設置:PennFosterは、同社の創出するインパクトのKPIを設定し、モニターし、また達成に向けた必要な取組みを実行していくための諮問委員会(Advisory Council)を設置しました。
さらに、同社は経営チームの報酬をインパクト指標と連動させることにしました。企業として、インパクトを真に追求していく覚悟が垣間見れます。
関連企業の買収の実行: 2019年にPennFosterはオンライン教育を提供する競合企業、Ashworth Collegeを買収しました。この買収により、PennFosterは更にシェアを拡大し、成長を加速させました。
売却(Exit)
上記の一連の成長支援を行った後、BCDIは2020年11月にBCDIが保有していたPennFosterの株式を売却し、Exitしました。
<売却をめぐる議論>
少し話がそれますが、インパクト・ファンドによる出資先の売却にはかなり大きな議論があることで知られています。なぜかというと、売却は基本的には投資家が決めます。投資家は少しでも高く投資先の持分株式を売りたいと思います。一方で、インパクト・ファンドが出資している先はインパクトを創出している企業です。高く買ってくれるからと行って、投資先のインパクトを重視している先とは限りません。
Penn Fosterの事例でいえば、Penn Fosterがインパクトを追求する企業であることが蔑ろにされ、BCDIがとにかく持分株式を高く売れる先に売却してしまうのではないか、心配になります。
BCDIはどのように売却先を決めたのでしょうか。
<BCDIによる売却判断>
どこの会社にBCDIが売却をしたのかは公表されていません。
しかし、BCDIは譲渡先との譲渡契約においてインパクトに関する条項を設定していることが分かっています。その条項の詳細は明かされていませんが、BCDIはその目的を「PennFosterが引続きインパクトを追求できるため」としており、おそらくBCDIが設定したインパクトKPIや管理システムの踏襲などが設定されたと推察されます。
以上、BCDIの概要から、出資案件とその関わり方について紹介しました。プライベートエクイティ投資におけるインパクト投資は、いままさに黎明期であり、急拡大しています。その先駆者であるBCDIは、先駆者として様々な革新的な手法(投資先へのImpact Advisory Councilの設置や、Exit時のインパクト条項の設定など)を導入しており、今後も業界をリードしていくと考えられます。
【参考資料】
2020 Year in Review (Bain Capital Double Impact)
Bain Capital raises $800 million for second Double Impact fund(ImpactAlpha, 11/23/2020)