テキサスの本拠地を構える石油メジャー、エクソンやオランダの石油メジャー、シェルが大転換と言われるサステナビリティに関する取組みを最近公表しました。石油業界の様子が変わってきています。
エクソンの事例
昨年の12月、Engine No. 1という、サステナビリティ/インパクトを掲げるアクティビストファンドが、配当を維持するためのコストを削減しながら、クリーンエネルギーへの投資に一層注力するよう、株主提案を行いました。
アメリカの巨大な年金基金でExxon株式の持分比率の大きい、カリフォルニアの教職年金基金(CalSTRS、総資産282.5 billionドル)も賛同しています。加えて、ブラックロックもExxonが気候変動リスクへの対応が遅すぎるとして、エクソン社の取締役選任2名に反対していました。
こういった株主からの圧力もあってか、エクソンは、以下の取り組みをするとしています。
二酸化炭素排出量を削減する技術に特化した専門チームを組成
2025年までに30億ドルを低炭素エネルギー技術に投資する予定で、主に炭素回収・貯蔵プロジェクトに投資。同社の年間資本支出の約3%から4%に相当。
同社は、炭素回収の技術開発に長年取り組んできていると説明していますが、同社は回収した炭素を増進回収法という、二酸化炭素を油井に圧入することで石油の採取量を増やすことに利用していると言われています。
これは、
二酸化炭素回収と石油の増進回収法の組み合わせによる環境面からの懸念の1つは、単に石油の生産量を増加させることになり、二酸化炭素を回収するそもそもの意味が大きく損なわれるのではないか
とMIT Technology Reviewが警鐘を鳴らしています。
今後、新設されたとされる、専門チームに十分な予算と権限が割り当てされ十分な取組みがされていくのか、炭素回収を何に役立てるのか、注目されています。
シェルの事例
2021年2月11日、2050年までにネットゼロを目指す経営戦略を発表しました。
同社の発表によると、
石油生産はすでにピークを迎えており、資産売却を含めて年間1-2%の生産量の減少を見込む。
今後10年間でディーゼルやガソリンなどの燃料の生産を55%削減する方針。
販売する電力量を2倍に増やし、新しい電気自動車用充電ステーションを2025年までに6万箇所から50万箇所にまで増やす予定。
としています。
環境に良いことと収益性のバランス
専門家によれば、
従来の石油・ガスプロジェクトが目標としていた15%に対し、再生可能エネルギープロジェクトのリターンは、通常は10%程度に留まる。
とのことです。
株主利益主義の立場からすれば、従来の石油・ガスプロジェクトに投資をした方が合理的ですが、この環境下、そういったわけにも行きません。一方で、こちらの記事で紹介したように、サステナビリティに偏りしすぎてしまうのも、満足できない株主も出てきてしまうかもしれません。
もしかしたら、エクソンやシェルが石油生産から撤退してしまうことで、地元の雇用機会が奪われてしまう、地域が過疎化してしまうといった問題もあるかもしれません。
ステークホルダー主義(※)を唱えるのは簡単ですが、こういったステークホルダー間の異なる利害をどのように調整し、経営していくのか、注目に値します。
※ステークホルダー主義とは?
アメリカ大企業のCEOが集う、Business Roundtable(アメリカ版経済同友会のようなもので、JPモルガンCEOジェイミーダイモン氏が議長)が2019年8月に提唱して、注目を浴びた考え方。会社は株主利益の最大化のために存在すると今まで考えられてきましたが、会社は株主だけではなく事業活動を取り巻く全てのステークホルダーの長期的な利益に貢献すべきとの宣言が出されました。181名のアメリカ企業のCEOが署名しました。その後、World Economic Forum(ダボス会議)などでも取り上げられています。
参考記事:
Exxon Under Pressure From New Activist Fund(12/6/2021,WSJ)
Exxon Promises to Cut Greenhouse-Gas Emissions, End Flaring by 2030(12/14/2021, WSJ)
Exxon Planning Board, Other Changes Amid Activist Pressure (1/27/2021,WSJ)
Exxon to Create ‘Low Carbon’ Business Unit as It Faces Activists(2/1/2021,WSJ)
エクソンモービルがCO2回収ベンチャーと提携、その狙いは?(MIT Technology Review)
Shell accelerates drive for net-zero emissions with customer-first strategy (2/11/2021,同社ウェブサイト)
Shell Hits Its Own Peak Oil, Plans to Reduce Output (2/11/2021, WSJ)
Business Roundtable Redefines the Purpose of a Corporation to Promote ‘An Economy That Serves All Americans’(8/19/2019, 同団体ウェブサイト)