Beyond Meatは、植物肉を生産・販売している会社で、その商品は、食料品店、レストラン、ホテルや大学など112,000店舗で提供されています。ImpactShare執筆チームの中にアメリカやイギリス在住の者がいますが、だいたいどこのスーパーに行ってもBeyondMeatの商品を目にするほど、人々の日常生活に入り込んでいるようです。バーガーのパテ、ソーセージ、ミートボールなどあります。
ImpactShareのこちらの記事では、同社のビジネス概要やIPOの状況をご紹介しました。
今回は、Beyond Meatがどのような社会課題を解決していて、同社はそれをどのように分析し説明しているのかを紐解いていきたいと思います。
インパクト・レポートの公表には、企業側に相応のコストがかかります。スタートアップであればその負担は大きいものであると考えられます。本記事の最後ではBeyond Meatがコストをかけてでもなぜ取り組んでいるのかについてImpactShareの考えをご紹介したいと思います。
以下、2018年9月に彼らが公開したインパクト・レポートや同社のウェブサイトをもとにその概要をご紹介します。
Beyond Meatのミッション
「食肉を動物性肉から植物性の代替肉に移行することにより、健康、気候変動、天然資源の確保、動物の福祉の観点から地球規模課題に対してポジティブなインパクトを生む」こととしています。
動物性肉が問題視される理由は、畜産が温室効果ガスの排出の14%を占め(全産業の中で2番目に高く、世界の自動車や運輸から排出されている量を上回っています)、土地の45%を使用し(その結果、土地汚染や植物種絶滅の主たる要因となっている)、世界の産業用水の30%を使用している事などが挙げられます。Beyond Meatは、動物肉の生産を植物肉(エンドウ豆等が主原料)によって代替することによって、動物肉生産が生じる問題を抑えるということで自社の社会インパクトを説明しています。
インパクト
Beyond Meatの特徴は、数値を使って、動物肉生産で生じる生産過程と比較しながら同社の生産過程のインパクトを説明している点にあります。
同社の公表資料によれば、主に4つのインパクトに触れています。この数字は、Beyond Meatの植物肉と牛肉1パウンド(450g)を比較し、その生産過程でのインパクトの差異を示したものです。
水の使用量:99%減
土地の使用量:93%減
排出される二酸化炭素量:90%減
エネルギー使用量:46%減
この数字、どうやって算出したのでしょうか?
数字を裏付ける大学機関によるレポート
驚くことに、Beyond Meatが開示しているこれらの数字はミシガン大学による研究チームの調査結果を元にしたものです。自社で独自に算出したものではなく、第三者機関に数値の検証を依頼しているとのことで、数値の信頼性を高めているということになります。
この調査レポートは公開されてるので、その内容を見ていきたいと思います。
46ページに及ぶこのレポートは、牛肉の生産過程で発生する二酸化炭素量や、畜産のために使用される土地開拓による資源利用等と、Beyond Meatの代替肉ケースを、使用する原料の原材料から生産、そしてスーパーに並ぶまでの一連の工程において比較しています。
牛肉とBeyond Meatの4項目での比較
Beyond Meatと通常の牛肉パティを生産~販売の過程で生じるCO2量、エネルギー量、土地使用料、水使用量の比較結果が纏められています。この数字が、Beyond Meatのホームページ上の数字のソースということになります。
以下、各項目の算出ロジックを簡単に説明します。
二酸化炭素量(GHGE):IPCC2007 100aという方法に則って算出されています。
エネルギー使用量:発電方法に関わらず、使用されたエネルギーの総量を合算しています。
水使用量:生産過程で使用されエコシステムに戻されなかった水の量を算出しています。さらにその数字に、地域の水の欠乏レベルによって設定した変数を書け合わせ、エコシステムへのダメージ数値として算出しています。
土地使用:実際に使用された土地の面積と使用された期間を元に算出されています。さらに、使用された土地の中でエコシステムにポジティブな用途に使われたものの面積を算出し、その面積分を総使用面積から差し引くという方法がとられています。
牛肉とBeyond Meatの工程間の比較
生産過程におけるインパクトは、以下の図に表されているように、原材料、生産、パッケージング、貯蔵保管、小売り店までの輸送過程などが比較対象工程に含まれていることが分かります。
何のためにコストをかけてインパクトを算出するのか?
簡単ではありますが、Beyond Meatのインパクト・レポートの概要を紹介しました。「インパクトの取り組んでいる」と謳うことは簡単ですが、その根拠を示すのは大変です。なぜBeyond Meatは、第三者機関に頼んでまでインパクト・レポートを公表しているのでしょうか。
「インパクトを創出していると言っているのに実は創出していないではないか!」とステークホルダーから言われるリスクを回避するためという目的もあるとは思います。
しかし、ImpactShareが調査をした印象では、Beyond Meatは、これらの調査をしっかり行うことによって、消費者に対して、同社商品を消費者が消費することで消費者自身が生み出すインパクトを語り、それが消費者を呼び込むアピール材料にしていると考えます。
実際に、こちらは同社ウェブサイトの中でも非常に目に付くところに掲載されています。
植物肉の食文化が浸透しきっていなかった当時、Beyond Meatにとって、通常の牛肉と比較した自社製品のメリットを示すことは事業戦略上非常に重要であったと考えられます。Beyond Meatは、その部分をより説得力を持ってアピールするため、この様にコストがかかっても本格的な第三者調査を実施し、レポートを公開したと推察されます。
社会課題を解決することを謳う企業は多々ありますが、このようにBeyond Meatほど説得力ある数字を使う会社は未だ珍しい状況です。どの程度のインパクト測定や公開を行っていくべきかは、その企業の戦略やステージによって異なって然るべきものですが、Beyond Meatのケースでいえばこのコストを負ってでも行ったインパクト調査は効果的であったとImpactShareは考えます。
【参考資料】
Key facts and findings (Food and Agriculture of Organization of the United Nations)
The Environmental Impact of Livestock Farming (Diamond Trailers)