最新の海外レポート紹介:インパクト測定・マネジメント(IMM)におけるベストプラクティスと課題
インパクト投資に関するレポートは、欧米をはじめとして数多く出ていますが、英語で長文の資料も多く、海外のインパクト文献をカバーするのは容易ではありません。そのようなニーズに応える無料サービスが実はあります。社会的インパクト・マネジメント・イニシアチブ(Social Impact Management Initiative, SIMI)のグローバルリソースセンターでは、インパクト投資・サステナブルファイナンス関連で重要な英語の文献を和訳し要約した資料を無料で閲覧することができるのです。
数あるレポートの中でもImpactShareが皆さんに紹介したいと思ったものを、今後数回に分けて取り上げていきます。今回は、以下のインパクト投資のインパクト測定・マネジメント(IMM)における取り組み事例の調査レポートです。
英語原文:The Benchmark for Impact Investing Practice
日本語サマリー:インパクト・マネジメントにおけるベストプラクティスのためのベンチマーク
本レポートをおすすめする理由は、
先駆的な投資家がどのレベルまでインパクト測定・マネジメント(IMM)を実施しているかが分かる!からです。
インパクト投資で一般的に使用されているGlobal Impact Investing Networkの定義(下記)では、インパクト投資は「測定可能な」インパクトを生み出す投資とされています。
IMMに関連する原則やフレームワークはいくつかありますが、本レポートでは、代表的なインパクト投資家がどの程度IMMを実施しているかを調査し、報告しています。レポートは、インパクト投資における先駆者的存在であるロックフェラー財団の支援を受け、インパクト検証を専門とするBlueMarkによって作成されました。
IMMの原則やフレームワークはあくまでガイドラインであり法律では無い為、どのようにどこまで従うかは各社に委ねられています。特に、新しくインパクト投資をはじめた投資家は、IMMについて何を行えば良いか悩むことが多くあります。そのニーズに応えるため、本レポートでは、ベスト・プラクティスを行なっているインパクト投資家にIMMの取り組み状況についてヒアリング調査を行い、傾向を分析しています。
なお今回のレポートを作成したBlue Markは、独立した第三者インパクト評価検証機関としてグローバルで多くの実績を有する著名な団体です。BlueMarkは検証実績と彼らのクライアントネットワークを活用して調査を実施しました。参加したインパクト投資家は業界でも有名なBig Society Capital、Bain Capital Double Impact、欧州復興銀行などが含まれ、調査対象のインパクト投資家は合わせて30社で合計990億ドルのインパクト資産を運用しています。
調査対象は、比較的大規模な投資家の先駆的事例となっており(インパクト運用資産500百万USドルの金融機関 が60%を占める)、同様のIMMを小さなファンドや金融機関が取り入れるにはハードルが高い可能性があります。今後参入するインパクト投資家が全体感を把握する上では参考にはなりますが、この内容をベストプラクティスとした上で、実際には自社が行うことのできる範囲で現実的なインパクト戦略を鑑みて実践する必要がありそうです。
レポートの概要
調査の前提として、本レポートではIFCのインパクト投資運用原則を参考にしています。このインパクト原則は、2022年現在、38カ国から160の署名団体が存在する非常に広範に活用されているものです。具体的な原則の内容については、こちらからIFCの参考和訳がご確認いただけます。
インパクトを追求する投資:インパクト投資の運用原則
そのうえで、各ファンドにヒアリングを行った結果として、インパクト投資の運用原則の取り組みレベルについては下記のような結果が出ています。
このレポートによると、原則1の戦略的なインパクト目標の定義については、取り組みが進んでいるようです。例えば、ロジックモデルやセオリー・オブ・チェンジ*(変化を起こすための活動と成果を定めるフレームワーク)を策定していたり、具体的なSDGsターゲットやImpact Management Projectのフレームワークを用いて投資戦略に組み込んでいるようです。また、それらの目標の定義が、信頼できる証拠で裏付けられている傾向にあることも特徴です。
一方で、原則7のインパクトを考慮したエグジットや原則8の投資意志決定のレビューと改善においては、中央値の投資家群ではまだ対応が十分に行われていなかったり改善の余地があることが見受けられます。今後の課題としては、投資終了時も投資先がインパクト創出を継続するためのエグジット方法や、インパクト・パフォーマンスのモニタリングと改善プロセスの確立が挙げられます。
本レポートの調査結果の詳細は、こちらから和訳要約資料を閲覧いただけます。
インパクト投資家がどのような原則をどの程度までIMMを実施しているのかについて解説しているレポートを今回は取り上げました。みなさんのご参考になれば幸いです。
*セオリー・オブ・チェンジについて詳しい手法の説明はこちら:英語/日本語
参考資料
“The Benchmark for Impact Investing Practice” 報告書 (2021/5、BlueMark)
The Benchmark for Impact Investing Practice (BlueMark)
Operating Principles for Impact Management Signatories & Reporting (2022/5 閲覧、IFC)