みなさんは、PitchBookという、金融情報サービスをご存知でしょうか。非上場会社による資金調達の情報を収集、整理、分析したデータベースであり、ベンチャーキャピタルやプライベートエクイティファンドの投資会関連の仕事をされている方は見たことがあるかもしれません。特に米国にて未上場企業投資を行っている実務者の間では、ほぼ皆さん目を通していると言っても過言では無いかもしれません。ファンドや投資ディールに関する様々な調査をしており、その結果を無料で見られるので、ご関心ある方はニュースレターへの登録がおすすめです。
このPitchBookが非上場の分野におけるサステナブル投資に関するサーベイを実施し、その内容が興味深かったので取り上げたいと思います。
このサーベイは、2021年から行われているもので、今年は552人が約30の質問全てに回答し、1164人が少なくとも1つの質問に回答したとしています。回答者の37%がジェネラル・パートナー(GP、ベンチャーキャピタルなどのファンド運用者)で23%がリミテッド・パートナー(LP、アセットオーナーなど、ファンドへの出資者)、その他M&Aアドバイザー会社、教育機関、投資銀行、ヘッジファンドなどが回答しています。回答者の本拠地を見ると、58%が北米、22%がヨーロッパ、アジアは11%です。
サステナブル投資についてということで、各投資家におけるESGの取組みとインパクト投資の取組が取り上げられています。今回はインパクト投資に関する調査結果を抜粋して紹介します。ESGに関心のある方はぜひ原文をご参照ください。
あなたの組織は、インパクト投資を顧客に提供していますか?
運用者のうち、65%が「インパクト投資戦略を顧客に提供している」と回答しました。これは、2021年の回答者の57%から上昇しており、関心の高さが伺えます。
アセットアロケーションの決定権限のある方やそのアドバイザリー業務に従事している方の61%がインパクト投資に割り当てた、または推奨したと回答しています。
あなたの組織はどの程度の期間、インパクト投資に従事していますか?
32%のファンドマネジャーが5年以上にわたってインパクト投資をしており、25%がインパクト投資戦略を開始してまだ2~5年という結果になっています。
ファンドの資金調達を行った運用会社数を見ると、新興の運用会社が多いとの結果も出ているので、トラックレコードを求めるアセットオーナーはこの点注意する必要があるとしています。
既存のインパクト投資ファンドの運用会社が3回目の資金調達に至っていないためとも解説がされています。
LPの39%が最初のインパクト投資を5年以上前に行っており、LPの方が運用会社よりも長くインパクト投資に取り組んでいることも分かっています。
インパクト投資を行っている場合、インパクト測定はあなたにとってどの程度重要ですか?
アウトカムの測定が難しいということを反映してか、回答者の37%は金銭的リターンと環境的社会的リターンを並行して追求しているが、現時点ではインパクト測定及びマネジメントをしていないと回答しています。
ファンドへの出資を決定する際に、GPによる投資先のインパクト測定及び管理がどれだけ重要であるかをLPに尋ねた質問では、27%のLPは、少し重要であるか、全く重要でないと回答した一方で、52%は非常に重要か、重要であると回答しました。
インパクト投資を行っている場合、標準的なフレームワークを使って測定していますか?
インパクト投資家のうち、標準的なフレームワークを使用しているのはわずか20%で、34%が独自のフレームワークを使用していました。
ちなみにESGリスク要因の測定と報告に関しては、GPのうち、標準的なフレームワークを利用していると答えたのはわずか23%、カスタマイズした手法を使用しているのは56%、そのような要因を全く測定・報告していないのは21%でした。
PitchBookの調査対象となるような、メインストリームの投資家のうち、65%が「インパクト投資戦略を顧客に提供している」と回答しているのは驚きでした。もちろん、こういったテーマで回答する投資家なのでバイアスはかかっているのかもしれませんが、前年のものと比較してもその割合は上昇しているとのことなので、ニッチの投資家による投資手法だったインパクト投資がメインストリームの投資家に受け入れられつつあるということだと思います。
一方で、バイアスのかかっている投資家の母集団でさえも、約4割がインパクト測定・管理をしていないというのはとっても大きな問題です。インパクト投資の定義に、インパクト測定・マネジメントすることが3つの要素のうちの一つとして記載されているほど、とても重要です。お金の出し手であるLPの半数は、重要と考えているようなので、LPがGPに対して今後影響を及ぼしていくのかもしれません。
今後、インパクトを追求する事業会社や投資家がインパクト測定及びマネジメントを実施することが当たり前になっていくだろうとImpactShareは考えているので、そういった意味では今から取り組んでも全く遅くないという解釈もできると思います。
<参考資料>
2022 Sustainable Investment Survey (2022/10/4, Pitchbook)
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