老舗PEファンドが考えるインパクト投資
Neuberger Berman(アメリカ)
Neuberger Berman(※)が2025年4月、「NB Private Equity Impact Fund II(Impact Fund II)」の最終クローズを発表し、目標額である3億ドルのコミットメントを達成した旨の報道を受け、ImpactShareは独自のネットワークを活用し、同社のプライベート市場、インパクト投資戦略を担当しているJennifer Signori氏(Managing Director, Head of Private Markets Sustainable Investing )に同社の展開する「Impact Fund II」の詳細とその背景、課題について、お話を伺いました。
※1939年に創業された従業員所有型の独立系資産運用会社であり、株式・債券からプライベート・エクイティ、不動産まで幅広い資産クラスをグローバルに運用。現在、世界39都市に拠点を持ち、約2,800名のプロフェッショナルが在籍し、2025年6月時点での受託資産残高は約受託資産残高は約11兆円。
―3億ドル規模のインパクトファンド第2号概要について教えてください。
「このファンドは、2021年にクローズした第1号ファンドの成功を基盤に、社会的・環境的課題に取り組む企業やファンドへの投資を目的としています。ポートフォリオは、非上場アセットクラスへの投資、共同投資、セカンダリー投資を含む多様なアセットクラスの構成になっており、弊社のプライベート・マーケッツ部門全体でのインパクト投資を含むサステナブル投資規模は、13億ドルを超えました。
インパクト投資は、SDGsをフレームワークとして設定されており、主なテーマは、健康の改善、持続可能な成長と雇用の促進です。教育(EdTechや職業訓練)、医療(統合型サービスモデルや新技術開発)、高速インターネットのアクセス拡大など、幅広い分野への投資を行っています。8件の投資を実行済で、そのうち5件が直接投資、3件がファンド投資になっています。
投資先には、農業用灌漑や産業用水効率を支援する水ポンプ企業、患者のトリアージを改善する革新的な医療提供モデル、学生や労働者向けのデジタル学習を可能にする教育企業などが含まれています。」
―インパクト投資は財務的リターンとインパクトリターンを並行して追求する投資ですが、本ファンドの収益の両立についての考え方を教えてください。
「リスク調整後の市場利回りを目指しています。投資先企業の製品・サービスが社会的インパクトを与えることが前提となっています。企業が成長し、より多くの顧客や患者にサービスを提供することで、社会的インパクトも拡大する設計です。」
―インパクト投資の運用はどのような取組みをしていますか?
「我々運用チームは、業界標準のフレームワーク、SDGsやImpact Frontiersの「5 Dimensions of Impact(インパクトの5つの基本的要素)」をベースにしています。「Operating Principles for Impact Management」に署名しており、「Impact Convergence Forum 」にもステアリング・コミッティのメンバーとして参画しています。
具体的なプロセスは以下のとおりです。
● 製品・サービスがインパクトに直結している投資先企業候補を選定する。
● 「Theory of Change」を構築し、活動→アウトカム→インパクトの関係性を明確にする。
● 学術論文などのエビデンスを活用して因果関係を補強する。
● 設定可能なKPIを認識し、投資先企業と事前の定期報告について合意する。
● 定期的なインパクト報告を通じて、投資家に定量・定性の両面から成果を報告する。
―インパクト投資の課題と展望について教えてください。
「インパクト投資が直面する課題は、昨今のプライベート・エクイティ全体の課題とも共通していると思います。特に、エグジットを推進することや投資家への流動性提供に対するニーズが挙げられます。
また、インパクト投資市場はまだ発展途上であり、資金調達は進んでいるものの、資本市場全体に占める割合は依然として限定的です。今後の成長には、成功事例の蓄積と、リターンの実現が不可欠です。日本でも注目されている「責任あるエグジット」については、インパクトが企業の収益モデルに内在している場合、買収後もインパクトを促します。企業の競争優位性、顧客理解、品質・価格・アクセスのバランスが、インパクトの持続性にとって重要な要素となります。」
インタビュー先:
Jennifer Signori (Managing Director, Head of Private Markets Sustainable Investments )
略歴
ニューバーガー・バーマンにてプライベート・マーケットにおけるサステナブル投資の責任者。インパクト投資戦略の開発と運用をリード。2017年に同社に入社し、プライベート・エクイティ投資チームの上級メンバーとして、ESGのインテグレーションを推進。以前は、インパクト投資に特化したプライベート・エクイティ・ファンドマネージャーであるBridges Fund Managementにてディレクターを務め、ファンドの拡張や投資のデューデリジェンス、インパクト管理に従事。また、J.P.モルガンでは投資銀行部門にてキャリアをスタートし、信用分析やシンジケート型レバレッジド・ローンおよび債券のストラクチャリングを担当。インパクト投資に関連する投資・アドバイザリー業務にも従事した経験もある。ジョージタウン大学にて国際経済学の学士号を取得し、ペンシルベニア大学ウォートン校にてMBAを取得。

