4月16日(火)、ImpactShareのイベント第3弾を開催しました。多くの方にご参加いただいてありがとうございました。参加できなかったので資料や録画がほしい!とのリクエストをたくさんいただきましたので、記事にまとめてお届けしたいと思います。

今回はイギリスのインパクト投資ファンドで働く城守鈴果さんをゲストに迎えました。
城守鈴果さんの略歴:新卒で三井住友銀行にて融資・貿易金融等を経験後、2020年英国へ移住。米銀勤務ののち、インパクト投資へのキャリアシフトのため英On Purpose Associateプログラムへ参加。老舗社会的インパクト投資ファンドのBig Issue Invest、The Social Investment Consultancyに半年ずつ勤務先、現在は英国老舗チャリティーにてヘルスケアベンチャーへのインパクト投資業務に従事。
城守さんは、インパクト・リーダーを育成し、インパクト投資業界や、インパクトを創出する企業・組織へのキャリアチェンジプログラムOn purposeの参加を経て、現在のインパクトファンドに就職しました。イギリスのインパクト投資業界における経験をもとに、インパクト投資の仕組みやキャリア、働く人々の想いなどを話していただきました。(聞き手:石田ともみ)
早速ですが、On Purpose Associate Programについて教えてください。
イギリスの任意団体が運営している、社会人向けのプログラムです。イギリスのほか、ドイツやフランスでもプログラムを展開しています。プログラムの”’アソシエイト”として採用されると、インパクト企業で6か月間、フルタイムで働くことになります。インパクト企業には、例えば環境系のコンサル、財団、非営利法人もあり、約1年間の間に2つの組織で働きます。この経験は履歴書にも書けるし、自分の興味あるセクターや組織とネットワーキングができるので、(インパクト企業ではない)普通の企業で働く人など、いろいろな人が参加しています。
On Purpose Associate Program紹介ビデオ
月曜日から木曜まで、割り当てられた企業で働き、金曜日は研修を受講することになっています。同期は約20人。私も当時勤めていた銀行を辞めて参加しました。同期には、コンサル、弁護士、先生、起業家などがいました。起業家には、一通り会社の設立から経験していたりして、もう1回学びなおしたいと言っていました。私はBig Issue Investとインパクトコンサルで働きました。
Big Issue Investではどのようなことをしていましたか?
The Big IssueにBig Issue Investという社会的インパクト投資ファンドがあり、そこで仕事をしていました。投資先は、多岐にわたり、特定のセクターに限定していません。インパクト企業であれば投資を実行できます。例えば、自閉症の青年を子どもにもつ女性が起業した高級チョコレートブランドに投資しました。この会社では中重度の自閉症を持つ若者を積極的に雇用しており、BtoCだけではなくBtoBで企業のイベントで配るロゴ入りノベルティチョコなどで販路を広げています。他には、チャリティーが運営する老人ホームやホスピス、ホームレスになってしまった方を雇用するイベント設営企業、地域のコミュニティセンターまで、投資先は多岐にわたります。
Big Issue Invest概要
Big Issue Investは融資、株式出資と、融資と株式出資を組み合わせたRevenue Participationという主に3つの手法でインパクト投資を行っています。Big Issue Investは、インパクト・ファーストを追求しているファンドで、融資が多くを占めています。株式投資は少な目で、最近はRevenue Participationというスキームが注目を集めてきており、増えてきました。
※Revenue Participationとは
投資先企業の売上(Revenue)パフォーマンスに基づいて投資家への支払額が決定される融資。売上が拡大すると投資家はより多くの支払いを受け、逆に売上がないと投資家は支払を受けない。融資のため、株式譲渡は発生しない。
銀行から社会的インパクト投資ファンドに入ってみて、どのように感じましたか?
銀行では、融資を担当していたので、財務の見方、融資の判断ポイントなどは頭に入っています。Big Issue Investでの融資案件は、普通の金融機関と似ているプロセスをとっていたので、銀行での経験によるアドバンテッジは感じました。
一方で、Big Issue Investの案件の多くは、銀行員時代の経験をもとに投資候補先の状況を見てみると、普通の銀行からは借りられないだろうと思われるところがほとんどでした。ビジネスが小規模なので門前払いされてしまうだろうとも思いました。銀行では、過去3年間キャッシュフローが赤字の場合には融資できないなどのルールがありましたが、その融資条件に満たないような企業の資金調達ニーズにどう答えられるのか、どうしたら良いのか、今まで考えてこなかったことに気づきました。しかし(Big Issue Investにて)じっくり深く腰を据えて企業に向き合ってみると、解決の糸口が見えてきたりして、実際に資金を提供できてすごく嬉しかったです。かなり細かく分析することに驚きましたし、とてもいい経験になりました。例えばコミュニティに根付いている、当事者コミュニティでの認知度が非常に高い、熱量の高いファンやボランティアが継続して参加しているなど、財務情報では計測しきれない情報が糸口になったこともありました。
どのような判断基準で投融資を実行していましたか?
財務的リターンについては、普通の金融と基本的には同じ考え方です。利息が入ってくるか、融資期間の間に元本が返ってくるのか。融資の場合には、会社として過去3年程度はしっかりビジネスを回していることが判断のベースになってきます。株式出資の場合には、アーリーで資金を入れて、成長してから最後にエグジットすることによって利益を追求します。過去の経歴よりも、将来の振れ幅を見ていることになります。株式出資の場合には、投資金額が融資より小さいので、投資家にとってはリスクが小さいということになります。このように、インパクトだからといって財務的リターンの見方に何か大きな違いがあることはなかったです。
インパクトは、インパクト指標、セオリーオブチェンジ考えるなど、あらかじめ決められたプロセスが社内にあって、それに沿って実行していきます。Big Issue Investには、設立から10年以上経過しているので、ナレッジが溜まっていました。社内にインパクト・スコア計測ルールがあり、それを活用していました。インパクト専任が3人いて、その方たちがかなりしっかり見ていきます。インパクト企業の投資候補先の中には、インパクト・マネジメントを全くしていないところもあれば、全て揃っているところもありました。取組状況に関係なく、全て同じプロセスと判断軸で見ていました。
インパクト・金銭的リターンのバランスとして、X軸にインパクトスコア、Y軸にIRRや案件の大きさを取っていました。45度線を引いて、そのラインを下回る企業には投資をしません。案件によってそれぞれでこぼこがありますが、ポートフォリオとしてバランスが取れるようになっています。投融資実行後、インパクトは思ってたより小さいということは今までなかったです。
インパクト・ファーストとなると、インパクト投資ファンドへの資金の出し手であるLPとのエンゲージメントはどうでしたか?ファンドに対する意向の違いはありましたか?
Big Issue Investの戦略やインパクトの意図に賛同するLP投資家が多かったです。イギリスで休眠預金資金を活用したBig Society Capital、ファミリー財団からの投資のほか、Bank of Americaや、アクセンチュアのCSRの予算から助成金を出してもらったこともありました。インパクト・ファーストに合意をしてくれているとはいえ、財務的リターンを並行的に追求はしているので、きちんと財務的リターンをそ出せるのかと聞いてくる投資家はけっこういいました。内部では、どのような説明をすれば伝わるのか、喧々諤々の議論を日々やっていました。
Big Issue Investで働いている人たちは、インパクト・ファーストにこだわりをもって、そして誇りをもって就職しているので、社内の一体感がすごくあったことがとても強く印象に残っています。
その後、インパクトコンサルで経験されましたね。どのようなことをしていたのですか?
コンサル会社での私のクライアントの一つはBig Society Capitalで、私はダイバーシティ関連のコンサルに従事していました。イギリスのインパクト投資において、ダイバーシティは大きな課題感が持たれている、ホットトピックです。インパクト投資はほとんど白人の高学歴の人や、恵まれた環境で育った人たちが行っているので、インパクト企業での現場感がないのが問題視されています。幅広い分野での経験を持っている人がやるべきだ、ジェンダーだけではなく、人種などの多様性を投資方針の中にどう埋め込むのか、などが議論されています。
現在のMacmillan Cancer Support でのインパクト投資のお仕事についても教えてください。
Macmillan Cancer Support は英国の老舗チャリティーで、がん患者のサポートをしています。ここでは、アーリーステージのスタートアップに株式投資しています。主にがんの早期発見や治療におけるイノベーションに投資しています。通常のVCのように高い財務リターンを目指しつつ、インパクトの創出をするスタートアップに投資しています。
大きな組織の中で効率的にファイナンス案件を検討するという面で銀行での経験が役に立っていますし、On Purposeを通じて経験した2社のインパクトにフォーカスした経験がなければ、この仕事に就くことも、その中でインパクト評価指標の設定業務を任されることもなかったかもしれません。業種・投資先のステージ・財務とインパクトのリターン目線など、自分にフィットするインパクト投資家の立場をこれからも模索しながら、経験を積んでいきたいと思っています。
最後にメッセージをお願いします。
肩ひじはらずにやることが一番だと思います。何でも公開しなくてはならないと考えなくて良いと思います。イギリスはインパクト投資が進んでいると思っていましたが、みんな早く仕事を片付けて17時に帰ることを重視しているので、その中でどこまできっちりやるかを考えて取捨選択しています。すべてのファンドが完璧な状態で走りだすのは無理です。評価が遅れてしまって、投資ができなかったら、リターンを確保できなくなります。情報開示は’Comfortable’になったらやれば良いと思います。
まずは、インパクト投資ファンドとしての優先順位をしっかりつけることが大事です。インパクト投資は、どの国でも新しく、みんなが協力しているので、お互い助け合って業界を盛り上げていきましょう。所属する会社以外で同じ志を持つメンターを持つこともおススメです。