イギリス発!環境問題と雇用問題の解決を試みる、林業ビジネスGone West
気候変動への対応が叫ばれるなか、インパクト投資家からの注目を集め、更に事業会社が積極的に採用しているのが「カーボン・オフセット(※)」です。今回は、個人及び法人向けにカーボン・オフセット・サービスを提供し、若者の雇用や林業従事者の労働環境改善を目指すイギリスのソーシャル・ビジネス「Gone West」をご紹介します。なお、本件は、スタンフォード・ソーシャル・イノベーション・レビュー2021年夏号にて紹介されていた取組みでもあります。
※カーボン・オフセット:日常生活や経済活動において避けることができないCO2等の温室効果ガスの排出について、まずできるだけ排出量が減るよう削減努力を行い、どうしても排出される温室効果ガスについて、排出量に見合った温室効果ガスの削減活動に投資すること等により、排出される温室効果ガスを埋め合わせるという考え方です。(環境省)
Gone Westの提供するサービス
Gone Westは、個人及び法人に対して、カーボン・オフセット・サービスを提供しています。
<個人向け>
「Greenlight by Gone West」アプリは、フライト、ロードトリップや宿泊を記録すると、炭素排出量を計算してくれます。さらに、このアプリを通じて個人が排出した排出量と同量の植林を行うことによって、個人レベルでのカーボン・オフセットすることができます。
一本の木が一生のうちに削減するCO2は、1,000kg。これは、5時間のフライト、約4,000kmのロードトリップ、またはホステルでの38泊分に相当する量です。1か月に1本植林するることによって1か月分のCO2排出量をオフセットします。
<法人向け>
企業による商品の製造や輸送、従業員の業務遂行に発生してしまうCO2排出をオフセットする支援サービスを提供しています。
例えば、イタリアの醸造所Hammer社は、Gone Westの支援を受けながら、「For the Planet」という、ビール・ラインを作りました。このビールが1本売れるごとに、Gone Westに0.70ポンド(0.90USドル)を寄付されます。この取組みにより、Gone West社は、2020年3月までに、100本の木を植えたそうです。
同社の特徴
Gone Westの特徴的な点は、仕事を必要としている無職の若者や元投獄者を雇用して植林をしていることです。Gone Westは、これらの人々に植林方法についての専門知識を提供し、しっかりとした賃金を払って植林をしています。
Gone Westは、同社のサービスを使っている一般消費者や法人が増えれば増えるほど、雇用が増えると共に、木も増えるといった仕組みを作り上げました。
創業の経緯とGone Westのビジョン
Gone WestのCEO、ジェームス・ヒューズ氏は、創業前イギリスの大手木材会社で働いていました。入社当時のヒューズ氏の日給は100ポンド(140USドル)程度でした。同氏は、今後の地球の未来は綺麗な水、豊かな土壌にあると考え植林業で起業することを思いつきました。2013年にその起業アイディアを周りの人に伝えた際、嘲笑されたことから、イギリスの慣用句で「気が狂った」という意味の「Gone West」というフレーズを社名にすることにしました。
Gone Westは、植林を通じて、倫理的でグリーンな雇用を創出し、自然な生息地の確立や回復を支援することをビジョンに掲げています。
同社の植林に対する思いがこちらの動画に表現されています。4分程度なのでもしご関心ある方はご覧ください。
同社が解決している課題
事業を通じて、環境問題に加え、複数の社会問題を同時に解決することを目指しています。
① 環境問題:人間は平均して年間12トンのCO2を排出しています。一本の木は、その生涯を通じて、1トンのCO2を相殺、貯蔵することができます。Gone Westは、カーボン・オフセットに必要なだけの木を購入する機会を提供しています。
② 若者の雇用問題:イギリスではコロナ禍で約1割の若者が失業したと言われています。同社は設立以来、500万本以上の木を植え、200人以上の無職の若者や元投獄者を雇用しました。
③ 林業従事者の労働環境改善:商業用の木材は、環境や木を扱う労働者にとって有害な大量の農薬で処理されています。Gone Westでは、一切農薬を使用せずに植林を行っています。また、Gone Westは、貧しい農村地域に持続可能な経済をもたらすことを理由に植林活動にはボランティアを受け付けず、地元の人々を公平な給料で雇用することを約束しています。
Gone Westを支える投資家
2019年、Gone West社は、エクイティ・クラウドファンドレイジングを通じて資金調達を行いました。第一回目のラウンドをクローズした際、Gone Westは359人の投資家から15万6,000ポンド(21万6,000USドル)以上の資金を調達することに成功しました。
まとめ
現在Gone Westは、バリュエーション570万USドルで、B Corp認証を受けるための手続きを行っています。
※B Corporationとは、Benefit Corporationの略で、高い社会・環境パフォーマンスを満たし、透明性と利益と企業の存在目的のバランスの取れた企業を指します。
創業者のヒューズ氏は現在、同社株式の約89%を所有していますが、最終的には投資家のうちの一人となり、将来的にはすべての株式を手放すことを想定しています。今後はケニア、パレスチナ、スペインに活動を拡大する予定で、世界中の人がGone Westのコミュニティになることを願っているそうです。
同じく林業スタートアップとしては、ケニアの「林業版エアビーアンドビー」を謳うKomazaが今年7月シリーズBラウンドで、2800万USドル(約29億円)のエクイティ出資を獲得したことで話題を呼びました。
コロナ禍で世界的にマスクやトイレットペーパーの供給不足が起きたことは記憶に新しいところです。我々の生活に必要不可欠な林業をよりサステイナブルなものにし、更にCO2をオフセットするなど気候変動対策に活用することは今後更に注目を集めることと思います。
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【参考資料】