近年、女性の健康課題をテクノロジーで解決するFemTechへの注目が高まっています。
FemTech Analyticsのレポートによると、投資の意思決定者の90%は男性であるため、女性の体など固有の問題を解決しようとするFem Techの理解がなかなか進まない状況でした。しかし、VCのFemTechへの投資は過去5年で3倍に増加しており、合計投資額は2021年には約19億USドルを記録しました。特に、婦人科、不妊治療、妊婦向けのスタートアップへの資金調達額が目立っていますが、母親向けネットワーキングアプリや女性特有の心身の健康をサポートするアプリ、セクシャル・ヘルスに関するスタートアップなど様々なFemTechが出てきています。
ヨーロッパ初のFemTech向けアクセラレーター・fem tech labの共同創業者であるKarina Vazirovaは、FemTechが注目され、投資が集まり始めた理由は「コロナ」と「フェミニズム」のトレンドと分析しています。ロックダウンによって夫婦で家にいる時間が増え、家庭での女性の負担が改めて認識されたこと、家庭内暴力が増えたこと、コロナにより通院する機会が減りデジタル・ヘルス領域が急成長したことがあげられます。今まで見過ごされがちだった課題が認識され、それをテクノロジーで解決する機運が高まったことにより、一気に業界が拡大しました。また2023年には、11億人の女性が更年期に入るため、ホルモンバランス等の健康課題に関する市場は6千億USドルという算出も出ています。
欧米では、すでにユニコーンとして時価総額が10億USドル以上のFemtechスタートアップが出てきています。今回は、2021年にユニコーンとなった話題のFemtechスタートアップであるMaven Clinic(アメリカ)、Elvie(イギリス)、次期ユニコーンと期待されるFlo Health(イギリス)を紹介します。
Maven Clinic
ニューヨークにて2014年に設立
資金調達額:約2億USドル
主な投資家:Sequoia Capital, Great Oaks Venture Capital, Lux Capital
Maven Clinicは、女性とその家族を支えるヘルスケアシステムを再構築をするためにKate Ryderによって設立されました。Kateは起業家になる前はジャーナリスト、VCとしてキャリアを積んでいました。周りの女性が子供を持つことでキャリアを犠牲にしていること、そして母親になる過程でのサポートが圧倒的に足りていないことを目の当たりにし、家族の形や家庭の社会経済状況にかかわらず公平でインクルーシブな家族計画や育児をサポートするビジネスを始めました。
Maven Clinicは生殖、妊娠、育児に関するバーチャルクリニックで、現在では175カ国30カ国でサービスを提供しています。主なサービスは、妊娠に至るまでのカスタマイズされたケア、24時間アクセス可能なアドバイザー、LGBTQ+への家族形成に関するサポート、精神的なサポートプログラム、家計管理のツールを提供しています。設立時は、学生向けの遠隔診療サービスが主なプログラムでしたが、大企業の社員向け福利厚生としてポジションを確立することでスケールに成功しました。
Maven Clinicは、サービスを通じて以下の3つを達成することを目的にしています。
家族間のエンゲージメントや信頼関係を強化し、家族としての生活形成をサポートすること
カスタマイズされたサービスを通じて妊娠前から子育てに至るまで親になる個々人の健康を改善すること
社員へのベネフィットとしてMaven Clinicのサービスを提供することで、離職率を減らし、生産性を改善し、さらに職場復帰率の向上に貢献し、職場の文化の変革を促すこと
Elvie
ロンドンにて2013年に設立
資金調達額:約1.5億USドル
主な投資家:Octopus Ventures, Business Growth Fund
Elvieは、女性のライフステージのあらゆるフェーズにおいて、女性の本来持っている能力を発揮できるようなツールを提供することをミッションに、ヘルス領域の専門家であるTania Bolerによって設立されました。
Elvieは、授乳をサポートするスマートテック企業で、ウェアラブル搾乳器等を提供しています。看板プロダクトのElvie Pumpは、ブラジャーに収まるデジタル&ウェアラブル搾乳器で、チューブ等を取り除きハンズフリーな搾乳を可能にしています。静かな稼働で、女性が仕事や家事をしながらでも搾乳でき、アプリで搾乳や量をモニタリングできるようになっています。簡単な操作性や身体に優しいデザインに加え、搾乳の強さなど複数のモードを選択でき、用途や身体に合わせた調整が可能なことも特徴です。また、他にもパワフルでより多くの搾乳が可能なElvie Stride、簡単なマニュアル操作のElvie Curve、骨盤底筋をアプリでモニタリングしながら鍛えるElvie Trainerなどを提供しています。
Flo Health
ロンドンにて2015年に設立
資金調達額:約7500万USドル
主な投資家:Target Global、Mangrove Capital Partners
女性の健康管理アプリでNo.1と評価されるFlo Healthは、2人のベラルーシ出身の男性によって設立されました。機械学習を活用したサービスを通じて、女性が自身の身体や健康、特に生理やリプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)ついて必要な知識を得ることで、女性の身体へのコントロールやWell-beingの向上をサポートをしています。Flo Healthの特徴は、100人以上の医療専門家による包括的なリプロダクティブ・ヘルスに関するインサイトや個人に合わせた情報提供、生理周期の管理や排卵のトラッキング、さらに疑問や悩みを相談できるプライベートのコミュニティがあることです。アプリに必要な情報を入力すると、パーソナライズされたユーザー個々の身体や精神的な健康を保つ情報、ラーニングプログラム、チャットによるアドバイスを受けることができます。現在、現状20言語でサービスを提供し、175以上の国で月間4500万人の人が使用しています。個人向けサブスクリプションアプリの他、2022年にはビジネス向けサービスをローンチしました。
Flo Healthは、知識こそが世界中の女性をエンパワーする最大の武器であることから、Floアプリを通じて女性が自身の健康に関して身体のあらゆる状況を把握して専門家の情報へアクセスを可能にすることで効率的な健康管理に貢献することを目的としています。さらに、共同創設者のDmitry Gurskiは、インタビューにて妊娠はパートナー間の共有の経験であり、月経や排卵周期も女性だけでなくパートナーと共に管理されていることが多く、Floの提供するインサイトを男性が学ぶことで、カップル間の相互理解の促進にも役立つと話しています。
Flo Healthは女性の健康についての資金、研究、教育が大幅に不足している課題を解決するため、2019年には国連のリプロダクティブ・ヘルスや家族計画の専門機関であるUNFPA(国連人口基金)とパートナーシップを組み、共同研究を開始しました。2022年には特に健康に関するリテラシーの低い国の4億人の女性に対して無料でサービスを提供すると発表しています。
女性は全人口の半数を占め、かつヘルスケアに関する意思決定の80%が女性によってなされているのにもかかわらず、女性の健康は未だにニッチな市場と捉えられています。今回紹介した3社は主に家族形成における女性の課題に焦点を当てていますが、家族の形や役割も変化する中、これらの課題がテクノロジーで解決されることによって女性の健康やキャリアにおけるエンパワメントだけでなく、家族関係、親子関係、さらには社会構造への変化も期待できるかもしれません。
参考資料
“Our goal is to showcase what femtech can accomplish and that it is worth investing in”: Interview with Flo’s (the period tracker app) CEO and co-founder, Dmitry Gurski (EU-Startups, 2021/9/22)
Investors see growth opportunity in Femtech devoted to women’s health (CNBC, 2022/3/21)
Kate Ryder, Maven Clinic, on revolutionizing women’s and family health (The Pulse by Wharton Digital Health, 2020/6/30)
Investing in FemTech: women, wellbeing and why it’s worth it... (FARRER & Co, 2021/9/5)
Why More Startups And VCs Are Finally Pursuing the Menopause Market: ‘$600B Is Not ‘Niche’’ (Crunchbase, 2021/1/21)
FemTech Industry 2021 / Q2 Landscape Overview (FemTech Analytics, 2021)