2024年9月22日から29日にかけてニューヨークにて今年で開催16年目を迎える世界最大級の気候変動イベントClimate Weekが開催されました。政府、金融機関、投資家、国際機関など各方面の関係者が参加し、脱炭素ビジネスの最新情報や意見交換が行われました。本記事は、インパクト投資の視点でClimate Week 2024を振り返ります。
世界中から参加者の集まるClimate Week
外交官、科学者、活動家、政策立案者たちに混じって、気候変動関連のスタートアップを投資家に売り込もうとする起業家が多く参加しました。本イベントがより注目されたのは、来年開催されるCOP30を見据えて、今年のCOP29への参加を見送る関係者が多かったとの声も聞かれ、その代替の意見交換の場として捉えられていた模様です。インパクト投資家も多く参加していたようで、後段で記載しますが、インパクト投資関連団体がサイドイベントを多く開催していました。
注目されたスタートアップ
Climate Week中、多数のイベントが同時並行で開催されていた中で、インパクト投資を専門とするメディアImpactAlphaが注目したのは、マサチューセッツ工科大学(MIT)による、大学技術等を活用して環境的・社会的課題の解決を試みるスタートアップのアクセラレータ MIT SOLVEによるピッチコンテストです。10数カ国の選抜会社に130万米ドルを授与しました。
例えば、藻類の利用を模索しているスタートアップ。カリブ海などの海域で、海水温が上昇し、藻が増え、砂浜の汚染につながっている一方で、バイオマス源でもある点に注目が集まっています。SOS Biotechが、藻類の中でもホンダワラ(sargassum)を原料にした化粧品や肥料を開発しています。メキシコのBioPlasterは、これを原料にした生分解性の包装材を製造しています。
他にも、SXDは、衣料品メーカーが廃棄物を50%以上削減できるよう支援するデザイン・ソフトウェアを提供しています。ロンドンとルワンダのキガリを拠点とするOX Deliversは、農家が商品を市場に運び、販売者が10分の1のコストで農産物を調達できるよう、専用の電気配送トラックサービスを提供しています。OX Deliversのナタリー・ダウセット氏は、サステナブルな配送をすることで、「輸送費が安くなることによって収入と所得が増加し、輸送需要が高まります」と説明しています。
AIと気候変動
気候変動を解決するためのAIの活用が注目されました。Google主催のイベント「気候変動対策のためのAI データからインパクトへ」では、エネルギー、農業、災害対応など幅広い分野で、気候変動対策を支援する上でAIの果たす役割について議論されました。例えば、電力網における再生可能エネルギー予測の改善、建物の冷暖房システムの最適化、衛星画像からのリアルタイムの洪水レポート作成、次世代クリーン・テクノロジーの設計促進などが挙げられます。一方で、気候変動対策へのAIの利用を拡大するには、データ、専門知識、AIを取り扱う能力、関係各所との調整を対処し、活用の公平性と倫理を考慮する必要があるとの指摘がされました。
また、Generative AIを始めとするAIテクノロジーの進化と普及が進む中、データセンターの需要、それに伴うエネルギー需要が飛躍的に伸長するという話題が数多くのセッションで聞かれました。Climate Weekの直前にBlackRockやマイクロソフト等がAIデータセンター及びそのエネルギー源に対して最大1000億米ドル(約15兆円)を投資するイニシアティブを設立したというニュースもあり、スタートアップ関係者の最も高い関心事項の一つとなっています。
気候変動テックをめぐる課題
こういった企業が注目される一方で、資金需要の課題も浮き彫りになりました。例えば、スギナバイオマスやグリーンコンクリートでイノベーションを起こしているPlantaerは、このご時世からして資金調達に困ることはなさそうにも思えますが、資金難に直面していると、生の声が聞かれました。Plantaerのコンクリートを活用すると、コンクリート製造自体がサステナブルなだけでなく、このコンクリートで作られたビルが炭素を吸収することできますが、新しい種類のコンクリートで建築・建設業界に参入するには、安全性の問題だけでなく、耐久性の問題や、その業界の既存業者の思い込みを乗り越えなければならず、どんなに熱が高く、知的好奇心がくすぐられる分野であっても、こうしたものを市場に送り出すには常に問題がつきまとうとの議論がありました。
ベンチャーキャピタルThird Sphereがサイドイベントとして開催した、気候変動スタートアップのエグジットをテーマとして行われたセッションでは、気候変動テックのエグジット環境がまだ貧弱で、新たなビジネスチャンスに振り向けるための資金が不足し続けることは、気候変動の緩和と適応の進展を遅らせる恐れがあると指摘されました。
気候関連技術の資金調達額は、今年上半期には110億米ドルにまで減少し、シード・アーリーステージのスタートアップの方がグロースステージの企業よりも有利な状況にあるとのことで、気候変動テックのスケールを支える主体として、フィランソロピーやその他の触媒となる、インパクト・ファーストの資金提供者、機関投資家、政府からの資金が果たす役割も注目されています。例えば、グロースステージに焦点をあてたピッチイベントがTrellis Climate、 Schmidt Family Foundationによりサイドイベントとして開催されました。
資金の性質にも注目されています。適応策に投資するプロジェクトの6件に1件は、気候変動に対する脆弱性を軽減するどころか、むしろ増加させているという統計があります。このような統計が意味するのは、必ずしも資金不足の問題だけでなく、設計、配備、プロダクトデザインの問題があります。例えば、サンゴ礁やマングローブの再生は、沿岸コミュニティの脆弱性を軽減し、食糧不安の問題にも取り組むことができますが、 マングローブを回復させる代わりに防潮堤を建設してしまうと、そのコストは自然資本の一部を回復させるよりもはるかに多くの費用がかかります。気候変動資金が適切な方法で使われるよう、より良いガバナンスの重要性が指摘されています。
インパクト投資をテーマとしたサイドイベント
その他、Global Impact Investing Network、Impact Principlesによるインパクト投資家のネットワーキングイベント、グローバルヘルスを対象としたインパクト投資を呼びかけるTriple Iのイベント、米国インパクト投資家のネットワークImpact Capital Managersのイベント、インパクト加重会計をテーマとしたGSG Impact、International Foundation For Valuing Impact (IFVI)のイベントなど、多く開催されました。これほどインパクト投資関連団体がClimate Week中にイベントを企画するのは今年初めてではないでしょうか。気候変動テックへのインパクト投資の関心の高まりを感じます。
参考資料
The Brief: Abundance of startups, scarcity of exits at Climate Week NYC (ImpactAlpha, 9/26/2024)
2024 Global Climate Challenge (MIT SOLVE)
Needed: Climate tech exits to keep the ‘circular capital economy’ spinning (ImpactAlpha,9/24/2024)