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欧州における気候変動ファンド紹介
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欧州における気候変動ファンド紹介

インパクト測定・マネジメントへの取組みを通じてインパクト創出に貢献

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Apr 8
3
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ヨーロッパでは、ベンチャーキャピタル(以下、VC)による投資資金の10%以上(約100億USドル)が「プラネット・ポジティブ」なテクノロジーに投資されています。プラネット・ポジティブとは、地球上の資源を持続可能に活用することを可能とするテクノロジーを指しており、プラネット・ポジティブの中でも特に、クリーンエネルギーや気候危機に対応するテクノロジーの伸びが顕著です。

State of European Tech 21より

気候変動問題をテクノロジーで解決する、Climate Tech関連のヨーロッパ発の特許数(2019-2020)は、アメリカや中国発の特許より50%も上回っており、さらにClimate Techのスタートアップの数も100は超えています。また、欧州連合の政策決定機関、欧州委員会も気候変動に関連する研究開発に330億ユーロを拠出しており、この分野における投資を後押しています。しかし、この分野に特化した欧州のファンドは40億USドルにとどまっています。そういった背景もあり、気候変動に関するVCが急速に拡大しています。

今回は、ヨーロッパにて、気候変動関連のインパクトVCを3つ紹介します。今回ご紹介するインパクトVCは、気候変動関連のセクターに資金提供することに留まりません。明確な投資哲学を持ち、投資先が気候変動問題を真に解決しているのか投資家が確認しようとしている点がポイントです。


World Fund

概要

  • 本社:ベルリン、2020年設立

  • ファンド規模:€3.5億

  • チケットサイズ:€1-300万 (アーリーステージ), €5-800万 (レイターステージ) 

World Fundは、ドイツに本社を置くヨーロッパ最大級のClimate Techに特化したVCです。年間100百万トンのCO2削減の可能性を持つスタートアップに投資しています。

ファンドの創設者は、検索するごとに植樹をするサーチエンジンEcosiaの創設者です。欧州のテック系スタートアップの起業家など60以上の投資家から資金調達をしました。

ジェネラルパートナーのDenijel Visevicは、「ヨーロッパには気候変動に対応する研究、イノベーション、政治意識はあるにもかかわらず、スタートアップに対するはサポートが足りていないことに問題意識を持ち、気候変動に対応する起業家を支えることを目的にWorldFundを立ち上げた。」とインタビューで語っています。

投資哲学・投資分野

ファンドの目標は、2040年までに2 ギガトン(世界の排出量の4%)のCO2排出を抑えることです。投資判断の際、毎年100メガトンのCO2排出を抑える可能性のあるスタートアップに投資しています。

脱炭素に大きく貢献する業界である、エネルギー、食糧&農業、製造業、建設、輸送を主に投資対象としています。

同社ウェブサイトより

投資先事例

  • Space Forge (イギリス): “Making Space Work for Humanity”をミッションに、再利用可能な衛星用マテリアルを製造。

  • QOA Company(ドイツ):独自の発酵技術でカカオを使用せず、価格競争力のあるチョコレートを製造。環境負荷の高く労働環境の悪いカカオ生産を減らし、サステナブルなチョコレートを製造・販売。Y Combinatorの2021Sバッチに選出。

  • Juicy Marbles(スロベニア):植物性のプレミアム肉(ステーキ)を製造。

投資判断プロセスの特徴

World Fundは、投資検討の際に投資候補先の「潜在的な温室効果ガスの排出削減量」を評価します。Visevicによれば、「気候変動を多次元的に評価することが理想的ではありますが、多次元に評価をできるほど、データが整っていなかったり、数字が存在していたとしても評価することが難しいため、まずは1つの側面を取り上げている」と説明しています。ESG投資の発展により、企業の商品やサプライチェーンへの温室効果ガスの影響に関する研究が比較的進んでいるため、まずは「潜在的な温室効果ガスの排出削減量」を見ることにしたのだそうです。

投資先のサービス提供により「潜在的な温室効果ガス排出削減量」どの程度か測定するだけでなく、同社は地球全体で削減すべき目標にどの程度貢献しているのか(「回避可能なCO2排出量(Total Avoidable Emissions )」)についても検討しています。これは、通常のベンチャー投資で評価する、投資先の獲得可能な最大市場規模(Total Addressable Market(TAM))と類似の考え方とのことです。

「潜在的な温室効果ガス排出削減量」及び「(市場全体に占める)回避可能なCO2排出量」などの指標群を、同社が大学等と独自に開発したClimate Performance Potential (CPP)に組み込み、インパクト測定及びKPIの設定しています。CPPの詳細は明らかになっていませんが、「気候変動に対する投資先のパフォーマンスは、投資先の財務パフォーマンスの予測因子である。」という考え方のもと、投資先のバランスシート、損益計算書、将来予測などに役立てられているとのことです。さらに、投資判断時に活用するだけでなく、生物多様性など多面的に気候変動パフォーマンスを管理し、LPに対して報告することも目指しています。

多面的にインパクトを捉えるべきとの考え方のもと、CPPのほかに定性的なインパクト情報やリスク評価も取り入れています。

Astoner Ventures

概要

  • 本社:ブリュッセル、2017年設立

  • ファンド規模:$3.25億

  • チケットサイズ:$100万-1,000万 (シード〜シリーズC)

同社は、投資を通じて、革新的でインパクトのあるソリューションを提供する起業家を支援し、事業拡大に貢献することで、世界のサステナビリティ目標達成を加速させることを使命としています。

インパクト投資の中でも、テクノロジーにより自然を守り育むことに貢献するスタートアップに投資しています。テクノロジーを介すことで、財務、社会、環境の3つの均等なリターンを追求することが可能で、ビジネスが成功すればするほど、より大きなインパクトを創出することができるとしています。

投資分野

農業・食糧セクターに特化して投資います。

健全な食糧システムは土壌から始まり、地域に根ざし、多様性を育み、人間と環境にとって最良の薬となる食糧を育てるという考えから、主に以下の3つの分野に投資しています。

  • 再生農業および水産業:資源の再生利用、土壌・海洋の管理、スケーラブルなアグロエコロジーの創造

  • 持続可能なバリューチェーンの構築:持続可能なサプライチェーン、公正な報酬、トレーサビリティと透明性、循環型社会、廃棄物の排除

  • 農産物加工プロセスの革新:食品、繊維、農業資材の持続可能な生産を促進による、人類と地球の健康の回復

    同社ウェブサイトより

投資先事例

  • Ynsect (フランス): タンパク質と天然昆虫肥料の生産で注目されているスタートアップ。昆虫をハイエンドな高付加価値食材に加工。2020年にEUから2,000万ユーロを調達。

  • Infarm(ドイツ): 環境に優しい都市型農園によってフードサプライチェーンを変革するスタートアップ。すでに約6億USドルを調達。

  •  NotPla(イギリス):サステナブルパッケージングのスタートアップ。海藻や植物から作られ、数週間で自然に生分解する画期的な素材を開発・販売。

投資判断プロセス

同社は6ステップからなる投資判断プロセスの中で、投資先が創出するインパクトを測定・マネジメントしています。

例えば、ポートフォリオ共通の6つのインパクトKPI(温室効果ガス排出量、生物多様性、社会、健康、水の使用、気候データ)を測定したり、ESG及びインパクト項目を株主間契約に盛り込んだり、投資時後に投資先が実施するESGとインパクト創出へのアクションプランの作成などが含まれます。

また、エグジットの際には、エグジットの前後でインパクト創出の定量化をしています。

同社インパクトレポートより

2150

概要

  • 本社:ロンドン、2019年設立

  • ファンド規模:€2.7億

2150は、ロンドン、コペンハーゲン、ベルリンにオフィスを持ち、ヨーロッパの都市を「クリーン」にすることに特化した€2.7億規模のVCファンドです。建設業界とスタートアップを繋げて、環境負荷の高い業界の気候変動への対応に風穴を開けて、システム変革を起こすことを目的に設立されました。2150という屋号は、2150年までに都市環境を居住可能で、健全かつ持続可能なものにするという想いからきています。

このファンドの特徴は、欧州に戦略的な資金元がいることです。本ファンドは、出資元であるデンマークの不動産企業大手のNREPから始まったため、業界への影響力の大きさと変革への高い可能性を伺えます。また、デンマークのバイオテック投資家Novo HoldingsやGreen Future Fundが支援していたり、共同創業者には、NREPの会長や、元Facebookの欧州エグゼクティブなどが入っています。

さらに、同社では「The 2150 Impact Framework」を定め、インパクト投資検討からエグジットまでのプロセスを文書に取りまとめて公開しています。これは、インパクトを投資判断に効果的に組み込む方法について、VC業界内における議論を促進しようという想いから来ています。2150の投資判断プロセスについては後ほど紹介します。

投資分野

2150は、都市の建築・建設業界のサステナビリティを前進させるテクノロジーに焦点を当てています。

都市の課題に特化している理由は、70%の世界の温室効果ガスは都市に由来していて、かつ建物や建設物は暖房、冷房、照明などから40%の二酸化炭素排出に貢献していると言われているためです。また、建設業界は全世界の13%のGDPを占めるにもかかわらず、サステナブルなソリューションや技術の導入が遅れていることも、この業界の変革を目指す理由です。

同社ウェブサイトより

投資先事例

  • CarbonCure(カナダ): コンクリート業界向けに、リサイクルされたCO₂を生コンクリートに注入し、性能を落とさずにコンクリートのカーボンフットプリントを削減する技術を製造。

2150インパクトフレームワーク

2150は、独自のインパクト・フレームワークの基準や、インパクトの評価とプロセスについて詳細を公表しています。

インパクト・フレームワークは、投資先に関する以下の検討に活用されています。

  1. 2150の定めるインパクトとサステナビリティの基準への準拠:化石燃料の不使用、パリ協定やEUタクソノミーに沿っているかを確認します。

  2. 現在と将来のインパクトの推定: 4つのインパクト・プリンシパル(Climate Action, Resource efficiency & Environmental Protection, Social Resilience & Balance, Profit & Purpose)に沿って、各投資先に適した指標とその潜在的なポジティブな貢献度を算出します。

  3. コアビジネスに対するサステナビリティ・パフォーマンスの査定:投資先の製品やオペレーションにおけるサステナビリティを推進するため、温室効果ガス排出量、気候変動リスク等の理解度と対応の課題を特定します。

  4. 2150のリーガルチームと、共同出資者による支援:インパクトの測定、サステナビリティ戦略やダイバーシティ・ポリシーの採用、ESGにおけるベスト・プラクティスの実践などを投資契約において考慮します。さらには、投資先のミッションを理解する共同投資家のコミュニティを2150が育成し、投資先のインパクトが関係者全員にとって投資の決め手となるように努めます。


まとめ

気候変動危機への意識と注目が高まっている中、気候変動の解決を試みている企業に資金提供するだけでなく、投資先による活動がどの程度課題解決に資するのかインパクト測定を通じて投資家が確認をしている点が興味深いです。

また、欧米ではVentureESG、Leaders for Climate Action、Diversity VCなど、投資家や企業のESG、ダイバーシティ等を支援・促進するイニシアティブがあり、エコシステムが形成・拡大しています。実際に2150インパクトフレームワークは、こういった活動のアプローチをもとに作成したようです。

インパクト指標の設定、測定・管理方法の策定は、世界中で試行錯誤がされている段階でありますが、このようにインパクトVCが自ら基準を定めて投資先とともに実践し、議論していくことがインパクト投資の進化・発展において重要なのではと感じます。

参考資料

  • State of European Tech 2021(Atomico)

  • These 40+ European VCs are on the hunt for sustainability startups (2021/11/4、Shifted)

  • World Fund is a new €350M climate VC fund incubated by green search engine Ecosia (2021/10/26、Tech crunch)

  • How to measure the climate performance potential of startups(2021/4/16、Danijel Višević, General Manager, World Fund)

  •  New €200m VC fund 2150 has a mission to clean up Europe’s cities(2021/2/23、Shifted)

  • The 2150 Impact Framework(2022/3/15、2150)

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