本記事では、NotCoという、植物由来の商品を開発するスタートアップを紹介したいと思います。
アメリカで植物由来の商品がたくさん並んでいます。例えば、高級オーガニックスーパー、ホールフーズで、牛乳の陳列棚を見てみると、牛乳と代替牛乳の売り場面積がだいたい同じぐらいです。高級スーパーだからというのもありますが、オートミルクにアーモンドミルクと種類の多さに驚きます。牛乳大好きの筆者は、今までは牛乳を1ガロン買っていたところ、半分はオートミルク、半分は今までどおり牛乳といったように組み合わせるようになりました。代替牛乳なんて…と初めは半信半疑でしたが、意外と(!)シリアルにかけても、そのまま飲んでもおいしく、代替牛乳が冷蔵庫にあるのが日常になりました。
それぞれの値段はオーガニックかどうか、銘柄にもよりますが、ハイエンドの牛乳よりもオートミルクや今日紹介するNotMilkの方が少し安めに設定してある印象を持っています。
本記事でご紹介するのは、上の写真にもチラリと写っている, “NOTMILK”の製造販売会社、NotCoです。牛乳ではないから、商品名は”NOTMILK”、マヨネーズではないから”NOTMAYO”というように、同社の商品は全て”NOT+本来の商品”というネーミング、ユーモアがあって面白いですよね。
会社概要
NotCoは植物性食品を開発する会社で、植物性牛乳「NOTMILK」はアメリカの高級スーパーチェーンのホールフーズなどで販売されています。2015年に3人のグループでチリに設立した会社で、1人はUC Davis出身で、関連する研究室を運営していました。アメリカではNOTMILKのみ販売されていますが、チリでは、NOTMILKに加え、NOTMAYO、NOTICECREAM、NOTBURGER、NOTMEATが販売されています。
解決したい社会課題
創業者であるMatias Muchnick氏は金融業界出身です。食品業界とは全く関係のないように思えますが、同氏によると、サブプライム問題と同じような問題が食品業界で起こっていることに危機感を覚えたそうです。毎日、人々が口にしている食品は、様々な材料を組み合わせて、消費者には全容が分かりにくい複雑な過程を経て食卓に届いていることを同氏は問題視しています。さらに、分かりやすい材料でより健康的な食品を作ると共に、動物性のものを使わない、環境に良い食品開発の必要性を訴えています。
同社の開発する商品がどの程度環境にインパクトを及ぼしているのか、ウェブサイトで公表されています。
何が他のスタートアップと違うのか?
植物性商品が登場して10年以上は経過しているので、さほど新しいビジネスではありません。NotCoは、事業のスケーラビリティを確保するためには、ベジタリアンの顧客だけでなく、ノンベジタリアンをターゲットにすることが必須でした。多くの読者のみなさんもそうかもしれませんが、ベジタリアンではない人は、「本物の味」を知っているため、味や食感、色に対する期待度が非常に高いです。Muchnick氏によると、「この本物に似た、味、質感、色を開発するのが非常に難しいので、代替食品の開発をしているスタートアップは、1種類のプロダクト開発に集中する傾向にあります。」とコメントしています。確かに、代替肉で有名なBeyondMeatは、肉関係の商品に絞っているようです。
NotCoが他の関連スタートアップと異なる点は、一つの商品だけではなく、多種類の商品開発をできるようにした点です。NotCoは、植物や食品の構造に着目し、膨大なデータセットを作成し、アルゴリズムを開発しました。そのアルゴリズムに、チーズと入力すると、この植物とこの植物をこのように組み合わせると似たようなものができるかもしれないという”レシピ”を出してくれるそうです。レシピどおり製造しても当然その後人間の舌で幾度となる実験が必要ですが、このアルゴリズムが「本物」に似た、味、質感、色を作るのに役立っているとのことです。
プロダクトのローンチ
同社は、何から商品開発をしたら良いのか、相当悩んだそうです。そこで着目したのがマヨネーズ。チリ人ってものすごくたくさんマヨネーズを消費するんだそうです。世界で最もマヨネーズを消費する国を見てみると、確かにチリはトップ10に入っています(ちなみに日本は11位です)。マヨネーズをたくさん消費するがために健康面での問題も指摘されました。そこで、マヨネーズよりも安く、そして健康であるNOTMAYOの開発に着手し、スーパーなどで販売してみたところ、瞬く間にヒット商品になりました。
また、ビジネスのスケールにあたってのターニングポイントは、植物由来の人工肉や乳製品を製造・開発するImpossible Foodsとの提携です。当時、Impossible Foodsはバーガー・キングと提携し、Impossible Whopperを開発 に成功していました。その結果として、新規顧客を開拓に成功していました。一方で、Impossible Foodsは、アメリカ以外の地域、例えばラテンアメリカでビジネスを拡大にあたってはリソース不足で制約があることは明らかでした。そこで、NotCoは、チリで植物性の肉を提供するパートナーになることをImpossible Foodsに打診しました。何度も話し合いを重ねた結果、NotCoはImpossible Foodsのために商品を作り、チリのバーガー・キングやレストランでハンバーガーを販売することになりました。開発にわずか数ヶ月で成功し、NotCoの技術力を業界に示すことができました。
資金調達
ラテン・アメリカでミッションを理解してくれる投資家がなかなか大変だったようですが、事業を拡大していくに連れてイギリスにあるThe Craftoryという、ミッションドリブンの食品業界のベンチャーに投資をするファンドからなどの調達ができるようになりました。
同社は、アマゾンの共同創業者、Jeff Bezos氏からも2018年に出資を受けています。出会いについて、一役を買ったのは、NotCoのアドバイザーの1人で、スタンフォードMBAの教授でした。そのアドバイザーは、「世界中で誰にでも声をかけられるとしたら、誰に投資してもらいたいですが?」とMuchnick氏に聞いたそうです。「Jeff Bezos氏!」と半分冗談で答えたところ、たまたまそのアドバイザーがJeff Bezos氏のファミリーオフィスとの人脈があり、ピッチする機会に恵まれたそうです。Muchnick氏は、「絶対に無理だと思っても、声に出して言ってみると道が開けることもある」と話しています。
今後の展開
NotCoを世界的なブランドにするための最大の課題は、サプライチェーンです。スタートアップがユニリーバをはじめとする巨大企業と競争するのは困難です。そこで、NotCoは、コカ・コーラのやり方が参考になると考えています。コカ・コーラは、世界各地でパートナーを見つけることで事業拡大に成功しました。コカ・コーラはパートナーに濃縮液を提供し、パートナーは現地の国で飲料を簡単に製造することができます。NotCoも世界中にパートナーシップを築くことで、NotCoは十分なリソースを研究開発にあてることができると考えています。
以上、NotCoについて紹介しました。チリ発のベンチャーが、巡ってくる機会を最大限に活用して、ビジネスを拡大を成功させているのは勇気づけられます。日本からもこのようなスタートアップがどんどんと海外で活躍するようになることを応援しています。
<参考資料>
など
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