カーボンクレジットのように、「インパクト」を売買できる取組みが進んでいることをご存知でしょうか。アメリカのベンチャーOutcomesXが2022年に売買プラットフォームを提供し始めました。そして2023年4月、売買が行われたのでその内容を詳しく見て行きたいと思います。類似の取組みは世界各国で挑戦されていますが、実際に売買が行われたのは世界初です。
OutcomesXが解決したい課題
社会的企業や非営利団体の資金調達コストは、企業に比べて5倍、政府に比べて約10倍かかっているとされています。また、特に地域社会の課題解決に特化しているNPOは、より資金調達にコストがかかるとされています。
資金調達するとなると、活動の根源であるインパクトに関するデータを資金提供者に提示をしなければなりませんが、そのデータ収集・分析をするための社内の体制構築及び運用も大変です。加えて、資金提供者によっては、インパクトデータの妥当性の検証を求める場合もあります。その際、第三者機関に依頼する必要がありますが、予算の確保も大きな課題です。
一方で、資金提供側である政府、企業、財団などは、資金提供先の選定のための工数がかかることはもちろんのこと、資金提供先がインパクトを創出し続けているのか進捗を管理するためにデータの網羅性及び適切性の確保が課題になっています。
プラットフォームの仕組み
これらの課題を解決するために、OutcomesXはImpact Genome Registryというインパクトデータを取り扱う機関と提携してプラットフォームを構築しました。
買い手は政府、企業、財団などの資金提供者、売り手は資金調達をする社会的企業や非営利団体、売買の対象は、社会的企業や非営利団体が創出するインパクトです。主なインパクトの分野は、住居、教育、食糧安全、医療アクセス等です。
このプラットフォームで資金調達をするためには、まず、非営利団体や社会的企業がImpact Genome Registryという、OutcomesXとは別の機関にインパクトに関するデータを登録する必要があります。Impact Genome Registryはその登録データを検証し、その結果として、以下のスコアカードが発行されます。
スコアカードを見てみると、当該プロジェクトの概要に加え、右側にはアウトカム及び当該プロジェクトが創出するインパクトがまとまっています。さらにそれらの証拠の確らしさについてもレーティングが付されています。ここまでまとまっていれば、インパクトの買い手が第三者機関に依頼する必要性がなさそうですし、インパクトの買い手の判断材料として大いに役立ちそうです。
ちなみにこのデータベースには、現在220万件のNPOや社会的企業のデータが登録されていて、12のテーマに沿って100以上のアウトカムの評価項目があります。そのうち、3,900件が認証されたものになっています。OutcomesX以外にも、世界中の非営利団体、政府、民間財団、企業によって、助成金や寄付のインパクトの報告、プログラムのベンチマーク、新しい助成先の発見、インパクト測定の標準化などに利用されています。
世界初取引!プロジェクトの取引事例
OutcomesXのプラットフォームにおける世界初のインパクト取引の購入者はUBSオプティマス財団で、200万USドルで購入したインパクトはウクライナの教育とメンタルヘルスに関するインパクトです。売り手は、ウクライナの現地の20の非営利団体でした。
取引に至ったプロセスを紹介しておきます。まずUBSオプティマス財団がOutcomesXに対して、「ウクライナの教育の成果の向上」及び「ウクライナのメンタルヘルスの向上」購入の依頼をしました。これを受け、OutcomesXはImpact Genome Registeryを活用し、要望に当てはまる現地の団体を100社見つけました。その中から約60社をを選定し、さらに最新のデータをImpact Genome Registryに登録してもらい、UBSオプティマス財団に提案しました。UBSは、その中からインパクトの最大化が見込める20社強を選びました。
16,000人の子供たち、650人の先生、32団体のキャパシティビルディングにつながる算定です。
まとめ
共同創業者のフィリス・コスタンザ氏は、自らがUBSオプティマス財団のCEO在任時に、開発インパクト・ボンドの初期の支援者だった経験から、このようなボンドは時間がかかり、ストラクチャーが複雑で、1つの取引を組成するのに何年もかかることがよくあることを課題に感じ、企業がアクセスしやすいプラットフォームの提供に至ったそうです。この取組みにより、「2倍の調達額を半分のコストで達成できる」とOutcomesXの共同創業者であり、Impact Genomeの創業者であるジェイソン・ソウル氏は述べています。
ウクライナのアウトカムに関する取引のプロセスを見ていると、OutcomesXがかなり労力をかけて取引を(何とか)成立させたという印象をImpactShareは持ちました。本来は株式市場のような、売り手と買い手がお互いにうまく発見しあい、その売買が成立するような市場の設立を目指しているようですが、現実はエコシステムが追いついていなく、取引を成立させるまでに仲介役が必要となっているということかもしれません。
とはいえ、このような資金調達やインパクトの評価をより効率的できる仕組みが進展することで、非営利団体や社会的企業は本質的で効果的な社会的インパクトの創出に集中でき、資金提供側は確実に効果的なインパクトを得ることができるようになることが期待されています。
<参考資料>
The next step in pay-for-performance: A marketplace for buying and selling social outcomes (2023/4/13, ImpactAlpha)