2022年10月12-13日にオランダのハーグにて、Global Impact Investing Network (GIIN)が主催するInvestor Forumが開催されました。GIIN Investor Forumは世界中のインパクト投資家の集まる1年に1度の大規模な国際会議で、業界最大の国際カンファレンスといっても過言ではありません。その会議に、ImpactShareメンバーが参加してきました!今回の記事では、今年のGIIN Investor Forumで議論されていたことや、気づきを簡単に報告します。
前回と比べ、参加者が2.5倍に!
今回カンファレンスは、3年ぶりの対面開催となりました。GIINの発表によると、参加登録者数は1,600人。3年前の600人から比べて参加者数が2.5倍以上に跳ね上がりました。更に、実際の参加登録者は直前に1,600人を超えており、会場のキャパシティの都合で、それ以上の参加登録を打ち切ったということでした。この大幅な人数増に、インパクト投資への関心が急速高まっていることを感じました。
参加者層の変化
従前インパクト投資の国際カンファレンスの参加会社は、そのほとんどが途上国へのインパクト投資を行っている金融機関など、国際開発のプレイヤーが占めていた様に感じます。しかし今回は、先進国の社会課題を解決することを標榜し、マーケットレートのインパクト投資家(通常の投資と同等レベルの金銭的リターンを求めるインパクト投資家)が急増し、存在感を放っていました。彼らは、環境問題、先進国における格差拡大、人種・男女格差、生物多様性、高齢化社会や定年退職世代の抱える問題を投資対象としています。それらの諸課題に関して多くのパネリストが議論をしていました。社会課題の中でも、開催地がヨーロッパであったこともあり、日本の投資家からはあまり聞かない、生物多様性についての問題意識を提起するパネリストも多くいました。以下の図を引用しながら、気候変動のすぐ後ろに生物多様性の崩壊といった大きな問題が待ち構えていることを話す実務家が多かったことが印象に残っています。
また、最終日の最後のパネル、いわばオオトリのパネルでのディスカッションテーマは” 次の”新しい常態”とは?(What does a “Next Normal” World Look Like?)と題して、先進国の社会課題をビジネスと資本主義のメカニズムで解決していくかをテーマに議論されました。パネリストもKKR、Bain Capitalといったメインストリーム投資家が熱い議論を行っている姿が印象に残りました。
スポンサーの顔ぶれにも変化がありました。Wellington Management、Bain Capital、Capricorn、KKR、EQTなど、より金銭的なリターンを重視する、巨大なインパクト投資家がスポンサーとして名を連ねていました。
インパクト評価のコンセンサス形成の拡がり
これまで、各方面でインパクト評価の手法や基準がバラバラであることがよく問題として掲げられていました。GIIN Investor Forumでのパネリストの事例共有や、筆者が意見交換した海外の実務家との意見交換を通じ、その問題は既に解決されつつあると感じました。多くの投資家は、活用しているインパクト評価のフレームワークは統一されてきており、例えばロジックモデルや「インパクトの5次元分析」があげられていました。
今、実務家たちの悩みは更に次のステージに突入していました。ただ単に投資先や投資家のインパクトの創出度合いを測定・管理にとどまらず、どのようにに投資判断から投資後まで一貫してインパクトの測定基準や評価するか、客観的で公正なインパクトデータをどうやって取得していくか、EUの投資家の間ではSFDR(Sustainable Finance Disclosure Regulation、欧州のサステナブルファイナンス開示規則)への対応をどう考えるか、といった点が盛んに議論されていました。また、インパクトウォッシュに対する懸念の高まる中で、第三者評価機関、例えばBlueMarkなどが存在感を増していることを感じました。
GIINの役割拡大
今回のGIIN Investor Forumが開催される直前に、IFCを中心に開発されたインパクト投資運用原則(Operating Principles for Impact Management、Impact Principles)が、今後はGIINに移管されるという発表がありました。Impact Principlesは世界のインパクト投資家たちが拠り所としてきた一つのガイドラインであり、このニュースは業界内では大きなニュースとして取りあげられました。そしてGIIN Investor Forum中に、GIINよりインパクト評価・IMMを発展させるためのリサーチ機関としてImpact Labという組織をGIIN内に発足させるとの発表がありました。このリサーチ機関はシンガポールの大手金融機関であるタマセックや、ヨーロッパの大手ファンドEQTのスポンサーの下に立上げられており、今後の動向が注目されます。インパクト投資業界の中でのGIINの役割が急速に拡大していることが感じられるカンファレンスでした。
GIIN Investor Forumはじめての日本関連パネル
参加者、スポンサー、登壇者の殆どが欧米のインパクト投資家という中で、引続きインパクト投資は圧倒的に欧米の実務家達がリードしていることを感じたGIIN Investor Forumでしたが、その中でGIIN Investor Forum史上初めてと思われる日本のインパクト投資についての紹介パネルが組まれました。テーマは、日本のインパクト投資現状とインパクト志向金融宣言です。30-40人近く参加し、参加者からは「日本ではどんな社会課題を解決するインパクト投資があるのか?」や「なぜ日本で急にインパクト投資が拡がってきたのか」といった質問が投げかけられるなど、活発なセッションとなりました。日本のインパクト投資残高は世界の1%であり、日本の市場は未だ小さいですが、社会課題先進国である日本として、対外的な発信を積極的に行うことでを発揮し、欧米を中心に発展してきた各種フレームワークの高度化に貢献していけたらと感じました。
以上、GIIN Investor Forum 2022に関する報告でした!