2021年5月26日、500 Startups主催「事業会社によるインパクト投資」をテーマとしたウェビナーが開催されました。その後編を本記事では紹介します。
事業会社においてどうマネジメントを巻き込んでいくのか、事業会社としてどのようにしてインパクトの創出に貢献するのか、インパクトをどう測定するのかなどについて議論がありました。
セミナーの内容に入る前に….
実はこのウェビナーに登壇していたパネリストたちでインパクトCVCの調査をしていまして、Stanford Social Innvation Reviewに記事を公表しています。インパクトCVCの形態に関する調査が興味深いのでこちらで紹介させてください。
記事によれば、
インパクト投資市場全体で推定7,150億USドルのうち、事業会社によるインパクト投資は現在72億ドル以上を占めています。この金額は2016年以降、年複利成長率54%で増加しています。
2020年だけでも、Amazon、Microsoft、Salesforce、TELUS、Citi、Unileverがそれぞれ1億USドルを超える投資を発表しています。
事業会社によるインパクト投資は、多くの場合、バランスシートを起点としています。企業は、オフバランスファンド、ドナーアドバイスファンド、ファンドオブファンズなどのスキームも活用するようにもなっています。
現在、企業のインパクト戦略の70%は、企業のバランスシートを利用しており、13%はオフバランスのファンドストラクチャーを、15%は財団やその他のフィランソロピービークルを利用しています。
インパクトの焦点も様々で、55%が環境、次いで社会正義(social justice)(35%)、人材開発・教育(23%)、健康(10%)となっています。
2020年に開始された戦略のうち、46%がダイバーシティ、エクイティ、インクルージョンをインパクト分野として含んでいます。
ImpactShareの知る限り、インパクトCVCに限定した調査は初めてなのではないかと思います。このような調査が実施されることからも、事業会社によるインパクト投資の参入の関心が高まっていることを伺えます。
序文が長くなりましたが、以下、セミナー概要(前編の続き)です。
Corporate Venture Capital in Impact Investing
2021/5/26 10:00 AM~11:00(PST)開催
登壇者
Caludine Emeott氏:Senior Director, Salesforce Impact Fund
Ryan Macpherson氏:Portfolio & Investment Manager, Impact Investing, Autodesk Foundation
Ken Gustavsen氏:Executive Director, Social Business Innovation, Merck
Moses Choi氏:Director, Sustainable Finance, RBC Capital Markets
モデーレーター Vijay Rajendran氏:Head, Corporate Growth, 500 Startups
どのようにして社内のマネジメント層を巻き込んでいますか?
Ken (Merck):マネジメント層の巻き込みはとても気を使ってやってます。投資判断を最終的にする意思決定機関は会社のC-suite層を入れています。マネジメント層を巻き込むことで、インパクト・ファンドを直接担当していないセクションに情報が共有されるようになるので、社内での協力を求めやすくなります。対外的には、このようなパネルディスカッションに参加し会社の取組みを積極的に発信するようにしています。幸いにも最近、FORTUNE社による、”Change the World List”に選出されました。
Ryan(Autodesk):Stanford Social Innovation Reviewの記事でも紹介されていますが、経営層を巻き込むことは非常に重要です。企業の最高幹部の賛同を得ること、幹部との明確なガバナンスおよび投資委員会のプロトコルを確立することの重要性を強調しておきたいと思います。
投資先のインパクトの創出を優先するのか、それとも、戦略的投資なのだからその実現を優先するべきといった議論、リスクかリターンかといった議論をよく聞くが、みなさんは社内でどう検討していますか?
Claudine (Salesforce):この議論は常に社内でしています。当ファンドは、社会性を重視しているファンドではないので、一般的なCVCと期待しているリターンは全く同じ水準だし、投資委員会も同じメンバー、投資判断材料も同じです。私たちのインパクトCVCにとって、1)戦略的な投資が目的であること、2)インパクトを追求すること、さらに3)市場リターンを追求すること、この3つを同時に実現させることが大事。一案件で3つ全ての軸を最大化するのは難しいですが、各案件で3つの軸のバランスに投資チームが納得できるかどうかを大事にしています。もし一つでも懸念があれば投資はしません。
Ryan(Autodesk):3つの軸はとても大事な議論です。弊社の場合には、自社のバランスシートを元手としているファンドや財団によるファンドなど、いくつかビークルを持っているので、資金の出し手と投資戦略によって、この3つの軸のどれをどう優先させるか異なります。財団によるファンドの場合には、インパクトの追求を重視していますので、特に気候変動や二酸化炭素の排出量の削減の分野にこだわりをもっています。ちなみに、この財団のファンドから大気中の二酸化炭素を直接回収する企業に投資をしていて、今朝IPOしました。
Ken (Merck):3つの軸を「トリプル・ボトム・ライン(Triple Bottom Line)」と言ったりしますよね。
事業会社がLPとしてインパクト・ファンドへ投資する際、どういう課題がありますか?
Ken(Merck):弊社は、 30百万USドルから700百万USドルの規模のファンドに投資をしています。弊社の中にインパクト・ファンドを評価するためのフレームワークがあります。インパクト・ファンドがどのようにインパクト測定及びマネジメントをしているのか、そのプロセスには透明性があり、内容を公表しているのかどうかなどが含まれています。インパクト投資業界が成熟してきてるのでインパクト・ファンドのファンドマネージャーにとって、当該ファンドが3つ目や4つ目の運用ファンドだったりすることも出てきています。彼らのトラックレコードも当然見ています。
インパクト測定及びマネジメントはどのように行なっていますか?
Caludine(Salesforce):インパクト測定及びマネジメントは、GIINによる指標カタログIRIS+、 IMPによる5 Dimensions of Impactのフレームワークを活用しています。どれも多くのインパクト投資家が使っているものです。IMPの5 Dimensions of Impactは、指標の細かい部分を分析するためのものではありませんけれども、投資先が生み出しているインパクトは何なのかを分析することができます。このフレームワークは、インパクトをどう見るか、インパクト投資業界での共通言語になっています。
※ImpactShareの補足:Claudine氏の発言にあるフレームワークや指標カタログ等の詳しくは、こちらの記事をご参照ください。
Ken(Merck):ヘルスケアに関しては、インパクト指標の設定方法にたくさんあるのが特徴です。投資先が診断センターであれば、診断を受けに来る人の数だし、新しい医薬品やワクチンであれば、その製品を服用している人の数、スマートフォンによるの金融包摂ツールであれば、それを利用している人の数などになるわけです。そのため、「この企業のサービスでは100人にリーチできたが、こっちの会社の製品では50人にしかリーチできなかった」というのは、必ずしも公平な比較ではありませんので、その点を念頭に置く必要があります。最終的には、十分なサービスを受けていない人々のための製品やサービスを通じて到達した人数に集約することにしています。
インパクト投資においては投資家がインパクト創出に貢献することが大事です。みなさんはどのように貢献していますか?
Claudine(Salesforce):投資家による貢献はとても重要な議論です。まず投資家側にしっかりとした投資テーゼを持っていることが何よりも大切です。その投資哲学に沿って貢献をしていくからです。次に当たり前ですが、投資先から投資家になって欲しいと思ってもらえるほどの信頼関係の構築です。その上で、Salesforceとしての貢献は以下の3点あると考えています。
まず1つ目は、戦略的な統合(Strategic integration)です。例えば、エド・テック(教育(Education)× テクノロジー(Technology)を組み合わせた造語で、教育課題にイノベーションを起こすビジネス)の会社であれば、Salesforceの教育関係サービスとの統合・提携を検討します。投資先サービスを市場に出していくプロセスを弊社が手伝います。2つ目は、Salesforceの中にたくさんリソースがあるので、投資先の準備が整いましたら、投資先の提供するサービスの価格設定、ダイバーシティの確保、マーケティング、プログラミング研修の提供などします。たくさんあるメニューから投資先に選んでもらいます。3つ目は、インパクト測定及びマネジメントです。私たちはインパクト投資家です。投資先のインパクト創出を向上させていくことができるようにインパクト測定をしその改善を促していくことをしていきます。
以上がウェビナーの概要です。いかがでしたでしょうか。
インパクトを追求するベンチャーキャピタルや国際開発機関、アセットマネジメント会社といった金融機関と同じように、インパクト投資の定義に忠実に各社が取り組まれていることが印象に残りました。インパクト投資家が意図を持ってインパクト投資に取組み課題解決に貢献するということはインパクト投資の根幹なのですが、たくさんのアセットを持っている事業会社であるからこそ、貢献の幅が広がることも気づきのうちの一つです。
日本の事業会社においてもインパクトCVCが広がっていくことを願うばかりです。