シンガポール政府系ファンドが史上最大規模の資金をインパクト投資ファンドへ投資
3月上旬、インパクト投資ファンド運用会社LeapFrog Investments(ロンドン)が、シンガポールの政府系ファンドと言われているTemasek Holdings とのパートナーシップを結んだと発表がありました。
これはインパクト投資業界では大きなニュースとなったので、その概要と、出資を受けることなったLeapFrog Investmentsの概要をお届けします。
====ニュース概要====
出資金額は、500百万USドル(約500億円)でGlobal Impact Investment Network (GIIN) によると、この投資は、アセットオーナーがインパクト投資ファンドに投資をした中で史上最大規模です。
Temasekは、運用会社としてのLeapFrog へマイノリティー出資をし、LeagFrog会社に対してグロース・キャピタルの提供と、LeapFrogのチーム拡大とアジア、アフリカに対する投資能力の強化をサポートします。また、LeapFrogは今回の出資受入を契機に、新たなインパクト投資ファンドの組成を目指します。
今回のパートナーシップの発表を受け、GIINのCEOで共同設立者であるAmit Bouri氏は、以下のように期待を表明しています。
今回のTemasekによるコミットメントは、世界のインパクト投資業界にとって新たなレベルの規模に達したことを反映しています。世界をリードする投資家たちは、財務的リターンと並んで、測定可能なインパクトを優先し、それぞれが互いに強化できることを示しています。何十億もの人々が家族やビジネス、コミュニティを明るい未来へと導くことができるようにするためには、投資家が現在展開している資本の規模を拡大することが不可欠です。
Temasek Holdingsは、1974年に設立されたシンガポールの政府系ファンドで、2,140億USドルの資産を運用しています(2020年3月時点)。「経済の変革」「中間所得層の成長」「比較優位の深化」「新興国の覇者」の主な4つの投資哲学に基づいて活動しています。
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興味深いのは、こちらの記事では、「Temasekが、今までインパクト投資に関心があるとは知られていませんでした」と書かれていて業界を驚かせた、とありますが、こちらの報道によれば、2年前からTemasekは寄付を専門とする組織を別に設立するなどこの分野への進出を画策していたことが伺えます。さらに同記事では、Temesekが「今後5年で世界中のPEファンドはインパクト志向のファンドを提供するようになるだろう」とロイター通信によりインタビューに答えたとされています。
以下、LeapFrog Investmentsの概要をご紹介します。
概要
2007年に南アフリカ出身のAndrew Kuparによって創設され、 “Profits with purpose (パーパスを持った会社に出資することを通じて経済的リターンを実現する)” を謳った、業界では初期のファンドの一つです。その想いには、「十億人単位の生活向上には、USドル兆単位の資金が必要です。寄付や開発援助は非常に重要であるものの、それだけでは全く足りない。」ことがあります。現在でも世界の人口の約半分の40億人が、質の高いヘルスケア又は金融サービスへのアクセスがなく、LeapFrogの目標は2030年までに10億人の人々へサービスを届けることだと、Andrewは述べています。
LeapFrogはこれまで総額20億USドルを運用し、アジアやアフリカを中心に投資しています。LeapFrogの投資先は平均30%の成長率で伸びており、これまで13万人の雇用創出と、2億人以上へヘルスケア、または金融サービスを提供しています。2017年には、Fortune誌による”Change the World”にプライベート投資ファンドで初めて選ばれ、AppleやNovartisに続くTop5に入っています。また、CEOのAndrewは2009年、若干33歳にしてクリントン米元大統領の主宰するClinton Global Initiativeに登壇し、マイクロファイナンスとオルタナティブ・ファイナンスの分野の新しいフォロンティアを開拓している企業と評価されています。
投資方針
LeapFrogは、世界で最も成長している市場で、成長性の高いパーパス・ドリブンなビジネスに投資をし、パートナーシップによって企業の成長を支えています。
以下の4つの特徴が挙げられています。
新興市場への投資:2025年までに30億兆の市場に成長が見込まれる市場へ投資。
ハンズオン支援:投資先に対してオペレーション、マネジメント経験を持つチームによる支援の実施。
現地に根ざしたネットワークの活用:急成長市場であるアフリカと南・東南アジアにて、同社はネットワークを構築済。ソーシングと審査に優位性あり。
パーパスを持った会社への出資を通じて経済的リターンを実現:保険の普及率は平均3%、近代的な医薬品へのアクセスは30%未満といった新興市場において、投資先の事業性と社会性の目標を統合した投資を実行。
最新の出資事例タンザニアのスタートアップ Pyramid Group
Pyramid Groupは、アフリカ新興国の医療機関に医療機器を販売している会社です。LeapFrogは2018年にPyramidに出資をし、出資を通じて製品の適合性の向上、ポートフォリオの最適化、運転資金の管理、より強固なサプライヤーベースを構築を支援しています。その結果、Pyramidは2018年以降、390万USドル以上の11,000点の医療製品、デバイス、医薬品を提携先の専門病院に供給してきました。
<Pyramidの解決する課題>
タンザニアでは5,800万人の人が1日1.90ドル以下の絶対的貧困で暮らし(2017年)、先進国に比べると交通事故による死亡や障害が特段高く、交通事故による稼ぎ手の不足は深刻な問題となっています。
首都ダルエスサラームにある専門病院 The Muhimbili Orthopaedic Institute (MOI)は、タンザニア唯一の整形外科、脳神経外科で、年間約7,000人の患者を抱え、医療機器が不足しています。
これまで、股関節置換術やペースメーカーの装着などの治療のために、これまで海外に渡航しなければなりませんでした。
<Pyramidの活動内容>
Pyramidは、現地の病院と提携し、整形外科、外傷外科、脳神経外科というこれまでサービスが行き届いていなかった分野で、医療・手術用製品を手ごろな価格で提供しています。
Pyramidは、医療機器は種類やサイズが豊富でそれらを所有する財務リスクを地元の病院が負えないことに注目し、委託販売モデルを構築しました。地元患者のニーズや人口動態に合った製品の需要に臨機応変に対応できるモデルを確立しました。
<Pyramidが創出しているインパクト>
これまで十分なサービスを受けられなかった低所得層の患者に、より多くの適切な製品を提供できるようになりました。また、患者が受ける医療の質の向上にもつながりました。また、このモデルの導入により、治療の成功率が上がり、治療時間とコストが下がったことで、これまで十分なサービスを受けられなかった患者とその家計へポジティブなインパクトを創出することができたとされています。
個別案件ごとには公表されていませんが、LeapFrogがポートフォリオ全体で創出したインパクトはこちらにまとめられています。
最後に
国連の調査によると、SDGsの達成には年間約5兆から7兆ドルの資金が必要と言われています。インパクト投資の拡大により、社会課題解決をパーパスに持った活動に資金、人材、知識がより流れることは、地球上の重要で大きな課題の解決に繋がります。今回のパートナーシップが、インパクト投資の規模が次のステージに達し、更なる資金とProfits with purpose を追求する企業の成長・拡大へつながることに期待せずにはいられません。
(参考資料)
Temasek commits $500m to impact investing specialist LeapFrog (FT, 2021/3/8)
LeapFrog Annual Impact Results 2019 (LeapFrog)
Why Bill Clinton helped a 33-year-old build a $1bn firm (BBS, 2017/1/27)