社会や環境の課題を解決する手段として、近年「ブレンデッドファイナンス(blended finance)」が注目されています。これは、公的資金やフィランソロピー資金を“呼び水”として活用し、民間資本を新興国・途上国へ呼び込み、SDGsやパリ協定の目標達成に資する投資規模を拡大する仕組みです。この呼び水となる資金は「concessional capital(譲許的資金)」とも呼ばれ、投資リスクを肩代わりして民間投資家の実質的なリスクを下げる役割を果たします。
本記事はブレンデッドファイナンスにおいて中心的な役割を果たし、グローバルネットワークである、Convergenceのレポートより紹介します。Convergenceは、特に新興国や途上国における持続可能な開発のために民間資金を動員することを目的としています。世界最大のブレンデッド・ファイナンス取引データベースを運営し、市場インサイトの提供や知識共有、革新的な資金スキームの設計支援を行うほか、ドナーや開発金融機関、民間投資家、政府などのステークホルダーをつなぐハブとして機能しています。また、OECDなどと連携し、政策提言や国際的な調整も推進しており、SDGs達成に向けた年間4.2兆ドルの資金ギャップを埋めるための重要なプレイヤーと位置づけられています。
Convergenceによれば、譲許的資金USD1ドルを投入すると、平均してUSD3.76ドルの民間資本が動員されると言われています。さらに、投資規模がUSD1億ドルを超える大型案件ではその効果が高まり、USD1ドルの譲許的資金で平均USD5.46ドルの民間資本を引き寄せるとされています。
譲許的資金を投入すると、多くの投資家が参入しやすい環境が整い、民間資本だけでは集めにくかった大規模な資金を動員できることから、ブレンデッドファイナンスは「公的資金が呼び水となり、民間資金でスケールさせることができる」という発想で語られます。
インパクト投資の分野では、投資対象の案件が一般の投資よりもリスクが高い場合が少なくありません。ここでブレンデッドファイナンスを活用すれば、譲許的資金の提供者が実質的にリスクを肩代わりし、民間投資家は下がったリスク水準で投資できます。そのため、ブレンデッドファイナンスはインパクト投資の裾野を広げる役割も果たしています。
本稿では、このようなブレンデッドファイナンスが世界でどのように活用され、どのような投資家が取り組んでいるのかを紹介しつつ、同手法が直面する課題についても触れていきます。
市場サイズと投資領域
2024年は、インフレが落ち着き金融環境も緩和して明るいスタートを切りました。しかし、米国の利下げが予定どおりに進まなかったことや、各国で同時期に行われた選挙への不安から、年後半には資本が再び流出し、各国通貨も下落しました。こうした不安定な市場環境にもかかわらず、ブレンデッドファイナンス市場は投資額が約183億ドル、案件数が123件となり、堅調な実績を示しました。
市場規模で見ると、ブレンデッドファイナンス取引の中央値は、2020〜2023年の3年間が3,800万ドルだったのに対し、2024年には6,500万ドルへ大幅に拡大しました。これは、投資額が10億ドルを超える超大型案件が3件登場したことが主因ですが、着実に取引規模自体が拡大していることを示しています。
投資対象プロジェクトをみると、再生可能エネルギーや交通インフラが中心となって大型化が進み、投資額の中央値は1億ドルに達しました。とりわけ2024年単年では、気候関連案件が件数ベースで49%、資金ベースで62%を占め、最も大きなテーマとなっています。もっとも、資源価格の上昇や許認可取得の長期化により案件数そのものは減少しており、リスク調整後リターンをいかに確保するかが課題とされています。
地理的な動向を見ると、案件数ベースではサブサハラ・アフリカが依然として48%を占め、首位を維持しています。一方、ウクライナ支援の影響で欧州・中央アジアのシェアは23%まで拡大しました。さらに、東アジア・太平洋地域でも大型ファンドの設立を背景に資金流入が急増しており、ブレンデッドファイナンスが世界各地で活発に活用されていることがうかがえます。
ブレンデッドファイナンスの仕組み
最も一般的で件数も多いのが「譲許的資本」の投入です。これは、公的機関や財団などが市場より低い条件(寄付を含む)で資金を供給し、資本コストを引き下げたり、民間投資家に追加の保護層を設けたりして投資を促進する手法で、全体の7割以上を占めています。具体的には、ファーストロスを引き受ける資本、劣後債務、投資段階の助成金、さらには市場を下回る金融リターンでリスクを負担する資本や債務などが含まれます。
次に多いのが保証・リスク保険型です。以前は全取引の2割弱にとどまっていましたが、2024年には34%へと大幅に拡大しました。特に開発金融機関や多国籍金融機関がポートフォリオ保証を活用し、商業銀行の融資拡大を強力に後押ししています。
さらに、技術支援資金の提供やプロジェクト設計時の補助金交付といったバリエーションも存在し、案件の実行可能性向上や初期コストの削減を通じて民間資本の参入を促しています。
出資者の顔ぶれ
ブレンデッドファイナンスに欠かせない譲許的資金の供給者の中で、最も存在感を示しているのは開発金融機関や多国間開発銀行です。特に、開発金融機関と複数ドナーで構成される資金プールからの拠出額は、過去3年間で合計51億ドルに達し、譲許的資金によるコミットメント全体の65%を占めています。具体例として、日本のJICAは金額ベースで最大の貢献を果たしており、アメリカ合衆国国際開発庁(USAID)は農業分野を中心に案件数で首位に立っています。
フィランソロピー投資家の動きを見ると、過去3年間では Global Energy Alliance for People and Planetが最大の譲許的資金提供者で、総額900万ドルをコミットしました。これに続くのが、ビル&メリンダ・ゲイツ財団とシェル財団です。
譲許的資金という「呼び水」と共に投資を行う民間資本も存在感を強めています。2024年には69億ドルが拠出され、開発金融機関や多国間開発銀行の拠出額を2年連続で上回りました。とくに商業銀行やその他の金融仲介機関のコミットメント比率は、2022年の45%から2024年には55%へと拡大しています。なかでも三井住友銀行と三菱UFJフィナンシャル・グループは、世界の民間セクターによる投資を牽引する存在として特筆されています。また、ファンドによる投資件数は減少したものの、51億ドルの資金拠出が見られるように、民間機関投資家の参画が拡大しています。典型例としてBrookfieldのCatalytic Transition Fundなどが挙げられます。
以上、ブレンデッドファイナンスの実態をまとめました。次回はブレンデッドファイナンスの課題について議論します。
参考
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