特徴的なインパクト・ファンドに出会ったので、紹介したいと思います。そのファンドの名前は、S2G Venturesです。2014年創設のアメリカ、シカゴを本拠地とするベンチャーキャピタルで、総運用資産10億USドルです。
何が面白いかということ、ここは「サステナブルな食」に徹底的にこだわって投資をしている点です。しかも、土壌や海といった食の源となるところから、それらの食品が生鮮食品店の商品棚に並ぶまで、関連する事業を営むビジネスへ投資をし、持続可能な食のエコシステム構築に貢献しようとしています。
このファンドはBeyond Meatを含め、EXITを4件、実現させています。以下、ファンドの概要と投資先の一部をご紹介します。
OpenTable創業者による!ベンチャーキャピタルファンド、S2G Ventures
実はこのファンド、レストランのオンライン予約を扱うOpenTableの創業者、Chuck Templeton氏によるファンドです。OpenTableは、同氏の奥さんが1998年、家族のためにレストランを予約しようとして3時間半も費やしたけど結局予約がどこも取れなかったという経験が契機となり、生まれたサービスです。OpenTableは、2009年にNASDAQに上場した後、2014年にPricelineという会社に買収をされました。同氏はこの頃からキャリアを転換させました。
あるインタビューでは、転換の契機になったのは、シカゴで二人のお子さんが生まれたことだったと紹介されています。今のままでは子供達が幸せに暮らす社会になっていない、特に気候変動問題は深刻で、同氏との関係に深かった、食について何かをしないといけない、とそう思ったそうです。課題解決にあたっては、非営利法人や政府が果たすべき役割がありますが、その二者だけでは解決できないので、ビジネスが必要であると同氏は話しています。
さらに、同氏は、スタートアップが果たす役割をこのように強調しています。
「ベンチャー企業は気候変動対策に非常に積極的な役割を果たすことができると思います。なぜなら、様々な種類のアイデアを試すことができるからです。アメリカの大企業の多くは、そのようなビジネスの機会を積極的に捉えることができるような研究開発の考え方や資本を持っていません。」
ファンドの資金調達
2015年に125百万USドル、2017年に2号ファンドとして280百万USドル、2020年には3号ファンドとして550百万USドルの資金調達に成功しました。さらに今年の4月、100百万USドルの、海をテーマとしたファンドの資金調達を実施しました。
投資活動
Agfunder社の調査によると、2020年、S2G Venturesは世界で最も活動している食に特化したVCファンドとの結果が出ており、37社に投資を実行しています。シードでは50万USドルから2百万USドル、レーターでは約5百万USドルを1案件あたり投資しています。
投資哲学と投資先
<食と土>
製品がどのように栽培されているか、食品に含まれる成分は何か、消費者の行動はどのように変化しているかなど、フードサプライチェーン全体に注目して投資しています。そうすることで、ビジネスやインパクトを全体感を持って捉えることのできる、ポートフォリオを構築することができるとしています。
生産(Production)(17社)
農業で使用する薬品や農場での技術や手法の革新を促したり、新しい資金調達や商品化のやり方を提案する会社に投資することにより、収穫量の向上、新しい作物の提供、より環境に配慮した農業の実践の実現を目指しています。
例えば、RNAを活用して農業や人間の健康増進をはかる、バイオテックGreenLight Bioscience、 植物性食品の製造に向けて改自然の遺伝的多様性についての研究を行っているフードテックBenson Hill(SPACという手法を用いて上場予定)などがあります。
サプライチェーン(15社)
今まで以上に、消費者は自分の食べ物がどこから来たのかを知りたがっており、 その食品が安全で新鮮であり、信頼性と責任を持って調理されたものであることを気にするようになっています。 食料供給を安全で持続可能なものにするために、生鮮食品、包装、検査、原材料、物流の分野で革新的な取り組みを行っている先に投資しています。
天然素材由来のコーティングの開発・販売しているApeel Sciencesや同じく天然素材由来の成分のパケットを開発しているhazel technologies inc.などがあります。
消費(23社)
消費者は、より自然で、機能的で、クリーンなブランドのものを求めており、その結果として商品の購入方法やブランドとの付き合い方も変わってきています。 このような変化の最前線にいる企業に投資しています。
代替肉を製造販売している Beyond Meatのほか、新鮮な地元食材を販売・配送するGood Eggs、地元食材を使ったサラダなどを提供するチェーン店Sweetgreenなどがあります。
<食と海>
同社は、生態系の回復力を高め、海洋資源の利用を最適化し、健康的な食の選択肢を求める消費者のニーズに応えるソリューションに投資しています。
センサーとAI技術を用いて農家の陸上養殖場の管理を支援するReelData、養殖用の病気に対する抵抗力の向上を目指すイスラエルのバイオテック・スタートアップViAqua Therapeutics社、化学物質を含まない技術で水処理、食料生産、資源回収の改善を目指すMolearer社などがあります。
EXITの実績
4社のEXIT実績があります。2019年に上場したBeyond Meatに投資をしていましたし、2020年に上場した、非遺伝子組み換えや化学物質を使わない農産物の栽培を支援する農業技術スタートアップのAppHarvestにも投資をしていました。また、ノースカロライナ州の種子開発会社Vindaraは、垂直栽培のKaleraに2300万ドルで買収されています。
同社は、食が気候変動問題に与えている影響は非常に大きいものとして危機意識を強く持っています。オックスフォード大学が行った最近の研究によると、化石燃料の排出をただちに停止してたとしても、食品生産によって気温が1.5度の限界を超えてしまう可能性があるとの結果が出ているそうです。今後この分野におけるイノベーションとリスクマネーの提供が期待されます。
Chuck Templeton氏の創業の経緯を紐解いていくと、OpenTableにしてもこの記事でご紹介したベンチャーキャピタルにしても、身近なイベントが契機となっていることが印象に残りました。そういった契機が行動を促して、それが将来の持続可能な社会につながるといったストーリーにImpactShareは勇気をもらいました。私たちも記事の配信をしっかり取り組んでいきたいと思います!読者の皆様の活動にお役に立てることを願って…
【参考資料】
Chuck Templeton | 2020 Spotlight Gold Award Winner (2020/1/28, Cal Poly Orfalea College of Business)
S2G VENTURES' $1B BET ON A HEALTHIER PLANET (2021/4/15, CHICAGOINNO)
10 Billion for Carbon Negative Food Transition(2021/3/11, S2G Ventures)
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