気候変動課題にテクノロジーで取り組む、 Cervestが30億円超の資金調達に成功
5月の初めに、Climate TechスタートアップであるCervest(本社:ロンドン)が30百万USドル(約30億円)超の資金調達を発表しました。前回のラウンドでは、インパクト志向の強い投資家から資金調達をしていましたが、今回は一般的なVCからの資金調達でした。インパクト志向の強い投資家が市場開拓をした後、会社の成長にあわせて一般的なVCから資金調達した事例として興味深く思い、Cervestをご紹介することにしました。
同社が解決している課題
同社は、気候変動問題に対処するために、膨大な過去のデータに基づいて、あらゆる種類の資産について潜在的な気候関連リスクを算出するサービスを主に企業、政府、金融機関に対して提供しています。また、同社はB Corporationの認定も受けています。
※B Corporationとは、Benefit Corporationの略で、高い社会・環境パフォーマンスを満たし、透明性と利益と企業の存在目的のバランスの取れた企業を指します。
気候変動による異常気象や災害の発生件数は増加傾向にあり、自然災害の発生数は30年前に比べて2倍以上に増えています。世界経済フォーラムの算出によると、2018年には自然災害による経済損失は1,650億USドルに及びます。
創業の経緯とCervestのビジョン~Climate Intelligence~
Cervestは2015年にIggy Bassiによって設立されました。同氏は、ガーナで持続可能な農業ビジネスを経営している際に、凶作の原因となる不安定な気象現象を説明する科学的データを探すのに苦労した原体験を元に、Cervestを起業しました。個々のビジネスの気候リスクを科学的に分析する方法を模索した結果、気候関連の統計データをインサイトに変換することにしました。
Cervestは、気候変動による複雑な影響を分析し、それを政府や企業において意思決定に役立つ情報に変換することができます。この一連のサービスを彼らは「Climate Intelligence」と呼んでいます。同社は、高度な気候関連の情報に誰でもアクセスを可能にすることで、より多くの人が地球環境を守ることに貢献できるようになることをビジョンに掲げています。
気候リスク情報プラットフォーム “Earth Science AI”
Cervestは、Alan Turing Institute、 Imperial College Londonの統計・データ工学の教授や金融専門家等をメンバーのやアドバイザーに迎え、Climate Intelligence プラットフォーム"Earth Science AI" を構築しました。
このプラットフォームは、公共および民間のデータソース、機械学習、および最先端の統計科学が組み合わされてできています。
Cervestのプラットフォームはユーザーに対して3つの価値を提供してます。
① 気候変動が資産に与える影響の可視化:資産とは、例えば、工場、商業ビル、住宅、ホテル、発電所、港湾などの建設インフラがあたります。このような資産に気候変動に関連してどのようなリスクがあり、そのデータを提供しています。
② 自然災害の兆候の可視化:沿岸や河川での洪水、山火事、強風、熱ストレス等
③ ①及び②のデータをもとにした分析情報の提供
Cervestを支える投資家
2019年の前回ラウンド(5.2百万USドル)はインパクト志向の強い投資家(Future Positive Capital, Astanor Ventures, Lowcarbon Capital)から資金調達をしたことに比べ、今回は大型で上場済みのDraper Esprit (10億GBポンド運用)がリードし、さらに、セールスフォース の創業者であるMarc Benioffが率いるTIME venturesも新しく投資をしました。
今回の資金調達ラウンドをリードしたDraper Espritのパートナー Vinoth Jayakumar氏はCervestが提供しているサービスの可能性について、気候変動に関する問題の理解促進につながるとともに、この分野は新しい400億USドル規模の市場であるとしています。
2019年のシードラウンドをリードし、今回のラウンドにも参画しているVC、Future Positive Capitalは、気候関連の科学的データにおける課題の観点からCervestの可能性について以下のとおり解説しています。
気候変動による異常気象や災害の大きさに関わらず、気候関連の科学的データには多くの課題が残っています。
まず、気候変動のインパクトの把握に必要なデータが不足していること、データがサイロ化し、包括的なデータの収集が困難なことが挙げられます。
さらに、API対応のデータが少なく、容易なアクセスや分析が困難であったり、気候リスクに対するスタンダードがないことも気候リスクを具体的な意思決定に組み入れにくい現状の理由です。
Cervestはこれらの課題に対し、気候リスクに関するデータ収集・分析をし、実際の意思決定に役立つ分析情報を提供するサービスを提供するにあたり、豊富な経験を持った経営陣を抱えています。
さらに、気候変動への危機感と対応策の必要性がさらに高まっています。
気候関連の資産への影響は、異常気象などの増加とともに増大しており、標準的な分析を求める声が高まっています。英国では75%の事業活動が気候変動をリスクと捉えているにも関わらず、気候リスクを計測し開示することを考えているビジネスは10%に過ぎない、というデータもあります。
また、金融安定理事会の気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言を受けて、物理的なリスクとそれに伴う財務的なリスクをより適切に評価しようする動きもあります。英国では、政府で気候関連の財務情報開示の義務化の検討が始まっています。
まとめ
世界大手の資産運用会社であるBlackRockのCEOであるLarry Fink氏が事業活動に対する気候変動リスクへの危機感を表明して数年経ち、近年ではESG運用額が急拡大しているにも関わらず、科学的データに基づいた気候変動に対する意思決定には課題が残っています。
今回はイギリスのスタートアップを紹介しましたが、アメリカでも気候リスクを分析し、レジリエンスを高める分析情報を提供するJupiter Intelligenceが2019年に35百万USドルの資金調達をしています。日本からもMS&ADグループがJupiter Intelligenceに出資をしており、同社とともにTCFD 向け気候変動影響定量評価サービスを提供しています。
多様なデータの収集・蓄積・分析テクノロジーの発展によって、ビジネスリスクのみならず、社会的損失を低減する計画や予防対策など、気候変動に関わる課題解決の潜在性に注目がされています。
【参考資料】
Climate risk platform Cervest raises $30M Series A led by Draper Esprit (2021/5/20, Tech Crunch)
Why we invested: Cervest — the climate intelligence platform (2021/5/20, Future Positive Capital)
UK proposes requiring businesses to disclose climate risks by 2022 (2021/3/24, Reuters)