日常的に食べているものがどの程度、環境に配慮したものになっているのか気にする消費者は増えてきているように思います。あるアメリカの調査結果では、商品を実際に購入する際に、消費者がサステナビリティを最も重視するカテゴリーは食品で、パッケージに気を遣う人も多くいるという結果が出ています。
その次のカテゴリーとして、洋服があげられています。
「洋服とサステナビリティ」と聞いて、2013年4月24日にバングラデッシュで首都ダッカ近郊の縫製工場が入った商業ビル「ラナ・プラザ」が崩落し、死者1,134人、負傷者2,500人以上が死亡する事故を思い出す方もいるかもしれません。この事故を受け、H&MやUNIQLO、ZARAなどのブランドを展開する20か国以上のアパレル企業を中心とした220社が「バングラデシュにおける火災予防および建設物の安全性に関する協定」に署名しました。世界中の企業が縫製工場の安全強化による建物の倒壊や火災の予防、労働環境の改善など、洋服のサプライチェーンにおけるサステナビリティの取組みを強化しています。
このように、私たちが毎日着ている洋服が手元に届くまで、環境や社会に大きな負担がかかっています。これらの負担を少なくするためにどのような取組みが必要なのか、ニューヨークタイムズに掲載されていた興味深い記事をもとにご紹介したいと思います。
問題意識と背景
ファッションは、「ファッションショーで紹介されて6週間後には世界市場に出荷する。消費者は1~2回着たら、次の新作を求める。着ては捨てる激安ファッションが普及している」業界です。
これは日本も同様で、環境省によると、一人当たりの年間平均の衣服消費・利用状況は、購入枚数は約18枚、手放す服は約12枚、着用されない服は25枚あるとのことで、手放す枚数よりも購入枚数の方が多く、一年間一回も着られていない服が一人あたり25 着もあります。ファッションのライフサイクルの短縮化や低価格がより多くの服を生み出し、消費されることにつながっているそうです。
ファッションが、環境汚染産業第2位という結果もあります。
そのような中で、2021年後半の最大のファッショントレンドのひとつは、色やスカート丈とは関係なく、サステナビリティに関わるものだったそうです。
長年、衣料品のラベルはその商品が製造された国や素材の構成比などの情報が記載されてきました。例えばコットンのTシャツを購入したとき、そのコットンがどこでどのように栽培されたのか、収穫した人の生活賃金が支払われているのかは分かりません。もし羊毛のセーターだった場合、羊毛の産地や羊が人道的な扱いを受けているのかどうかも分かりません。そこで、消費者が購入したい洋服の製造過程を追跡するための4つのラベルを紹介します。
Sheep Inc.によるNFCタグ
2019年にロンドンを拠点とするニット製品会社Sheep Inc.がNFCタグというものを開発、導入しました。NFCとは、near-field communicationの略で、近距離無線通信を意味します。顧客がアプリで自分の購入したウールのセーターのサプライチェーンを追跡できるものです。5セント硬貨大のプラスチック製のタグにスマートフォンをかざすと、アプリのページが開き、「羊がどの群れに属しているか、毛を刈った日、最後に予防接種を受けた日、出産した日、ニュージーランドから工場から顧客まで、羊毛がどのように移動したのか」を確認することができます。
チャールズ皇太子がリーダーシップをとったデジタルID
2021年10月に開催された20カ国・地域(G20)会合で、チャールズ皇太子がリーダーシップをとった「Sustainable Markets Initiative Fasion Taskforce」にて、ファッションアイテムの生産から販売、そして再販までを追跡できる「デジタルID」を発表しました。今年からこのIDをARMANI、Mulberry、Chloeなどタスクフォースの15ブランドと小売業者が使用し、今後もより広く普及させることを計画しています。
デジタルIDは、ファッション・タスクフォースが電子認証企業のイーオンと開発したものです。衣料品ラベルのQRコードや商品に埋め込まれたNFCを読み取ることができます。染料やボタンなどの部品が特定できるため、リサイクルにも有効なツールであるとともに偽造品の特定にも役立ちます。
イギリスのスタートアップProvenanceが開発したシステム
2017年創業のProvenanceは、衣料品の製造に使われている材料の栽培から衣服の完成に至るまでのサプライチェーンを追跡するソフトウェアを開発しました。この技術は、昨年秋にデンマークのブランドGanniによって初めて採用されました。
Provenanceのシステムを利用すると、消費者はブランドのオンラインショッピングプラットフォーム上で必要な情報にアクセスできます。例えば、『コットン』をクリックすると、水の使用量、二酸化炭素排出量の削減、労働者への影響などを見ることができます。今後は、タグやラベルに同じ情報をQRコードで埋め込む計画もあるようです。
アメリカのスタートアップNisoloによるSustainability Facts ラベル
2011年創業のNisoloはテネシー州の靴のメーカーです。同社は、食品の栄養成分表示欄にヒントを得て、「Sustainability Facts ラベル」を開発しました。このラベルは靴の箱に貼られていて、賃金、ヘルスケア、素材、パッケージングなど12のカテゴリーごとに、パーセンテージで表示されます。例えば、ある商品のサプライチェーンに関わるすべての人に、Global Living Wage Coalitionの定める生活賃金が支払われていれば100%、10工場のうち9工場で産休や健康管理が行われていれば90%となります。Nisoloのデータは、Higg Index、Textile Exchange、Good on Youなど31の情報源と、独自の調査から得られているとのことです。
今回ご紹介したProvenanceのシードラウンドにはHumanity Unitedという、Omidyar Networkから派生し、人権の尊重をミッションとするインパクトファンドが投資をしていますし、この分野にTriodos Investment Management、以前取り上げたClosed Loop Partnersなど多くのインパクト投資家参入をしているとの記事もいくつか目にしています。
今後、要注目です。
<参考資料>
What If You Could Read a Fashion Label Like a Food Label? (2022/1/10、The New York Times)
CEOが直面する喫緊の課題:サステナビリティを消費者の手に届くものにする (2021/06/24、EY)
ESGファッションとサーキュラーエコノミー!サステナブル素材で作る代替レザー|Earthshot Talk #9 (2021/12/3、Onlab)
縫製工場での安全基準の今: 日系企業の取り組みと課題(バングラデシュ)(2021/10/8、JETRO)
激安ファッションの犠牲者 バングラデシュの悲劇とユニクロ「年収100万円」(2013/5/2、ヤフーニュース)
Sustainable fashion investment is growing up (2021/8/5、 Vogue Business)
Inside the Rise of Impact Investing, Ethical Fashion’s Controversial Trend (2020/8/26/、eco-age)
SUSTAINABLE FASHION これからのファッションを持続可能に (環境省)
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